冬に旬を迎える「鱈(タラ)」。マダラの白身はクセがなく上品な味わいであることから世界中で需要が高く、北海道では鍋の具材として大人気。身だけでなく、本体よりも珍重されるクリーミーな白子、そしてスケトウダラの卵巣はたらこや明太子になるなど、日本人の食卓には欠かせません。今回は低脂肪・高タンパクの魚としても知られるタラについて、管理栄養士の筆者が栄養と効能を詳しく解説します。
目次
【鱈(タラ)】について詳しく知ろう
「鱈」はタラ科タラ類に属する肉食の底棲魚で、日本で主に獲れるのはマダラ、スケトウダラ、コマイの3種類です。北緯37度以北の冷たい海に生息するマダラ(真鱈)は、アメリカ・カナダ・ヨーロッパなどの北半球では最も重要な魚資源の一つであり、イギリスの「フィッシュ&チップス」やフランスの「ブランダード」、ポルトガルの「バカラオ(塩漬け干物)」のような世界的に知られる料理が存在します。日本においても古くから食されており、室町時代の頃には北国で獲れた魚が江戸や京都に流通していたとされ、山間部や冬期間中の重要なタンパク源になっていました。漢字に「雪」がつくことからもわかるように、鱈は身が雪のように白く、北海道や東北など雪が降る寒い地域に生息し、旬の時期は産卵期と重なる12〜2月です。「鱈腹(たらふく)食べる」、「出鱈目(でたらめ)」と漢字で書かれるほど節操なく何でも食べることで知られており、様々な魚類やエビ類などを捕食します。
マダラ(真鱈)
鱈というと思い浮かべるのは「マダラ(真鱈)」ではないでしょうか。マダラはその名の通り体にまだら模様があり、全長およそ1mになる大型の白身魚です。地方名で、マダラの小型魚を「ポンタラ」ともいいます。マダラは身が白く透明感があり、味は淡白でクセのないことから多くの人に好まれています。タラちりなどの鍋料理や、ソテー、フライ、煮付けなど様々な料理と相性がいい食材です。
スケトウダラ(スケソウダラ)
「スケトウダラ」は身が安価で、かまぼこなどのすり身の原料として加工用に使われることが多い食材です。一方でその卵巣は高価で、塩蔵による加工でたらこや明太子になります。
コマイ(氷下魚)
コマイは漢字で「氷下魚」と書き、氷に穴を開けて漁獲することからその名がつきました。北海道では「カンカイ(寒海)」とも呼ばれ、水温0℃以下でも生きられることが由来とされています。コマイは大きさで呼び名が変わり、稚魚から体長15cmまでを「ゴタッペ」、15〜20cmを「コマイ」、25cm以上を「オオマイ」と呼びます。ほとんどが干物として流通し、産地の北海道であっても鮮魚として見かけるのは稀な魚です。
鱈(タラ)の栄養成分とその効能について
鱈(タラ)は100gあたり77kcal、タンパク質17.6g、脂質0.2g、炭水化物0.1g、食物繊維は0gです。鱈は肉の部分には良質なタンパク質が、また肝臓・白子・魚卵にはビタミンDなどの栄養素が豊富に含まれています。
◆タンパク質
鱈は100g中に17.6gのタンパク質を含みます。タンパク質は三大栄養素の一つで、通常筋肉や内臓・骨・皮膚・髪・血液をはじめ、ホルモンや酵素、免疫物質などの材料となり、健康の維持に重要な役割を担っています。不足すると筋肉量や免疫力の低下が起こります。
◆ビタミンD
鱈は100g中に1.0μgのビタミンDを含みます。ビタミンDは骨や歯の形成に役立ちます。鱈をはじめとする魚類、キノコ類に多く含まれます。ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける働きがあるため、カルシウムと一緒に摂取したい栄養素。小松菜などカルシウム豊富な食材と合わせれば吸収率がアップし、骨を丈夫にし、骨粗鬆症の予防にも。ビタミンD自体は脂溶性で油で調理すると吸収率がアップするため、油を使った調理がおすすめです。
◆カリウム
鱈100gあたりのカリウムは350mg。カリウムはナトリウムと協力して細胞の浸透圧を維持したり、余分なナトリウムを体外に排出し、血圧を正常に保つ働きがあります。他にも腎臓からの老廃物の排泄を助けたり、筋肉の収縮をスムーズにする働きも担います。
◆ビタミンB12
ビタミンB12は赤血球を合成するのに必要な栄養素です。不足すると貧血や不眠や肩こり、腰痛などを伴う神経障害になりやすくなります。食事摂取基準では、12歳以上の男女で2.4μg/日の推奨量が設定されています。鱈100gあたりのビタミンB12は1.3μg。鱈切り身1切れの重さは約80〜120g程度であるため、鱈を取り入れることで1日の約半分のビタミンB12を摂取することができます。ビタミンB12は水溶性ビタミンのため、鍋などにすると栄養を余すところなく食べられますよ。
◆ビタミンE
鱈100gあたりのビタミンEは0.8mg。さらに魚卵であるたらこには100gあたり7.1mgと豊富に含まれています。ビタミンEは活性酵素の働きを抑えて老化を予防することから別名「若返りビタミン」「アンチエイジングビタミン」とも呼ばれています。また、血行を良くする働きもあるため、血流の悪さからくる冷え性の改善にもつながります。
◆グルタチオン
鱈には強い抗酸化・抗ストレス作用のあるグルタチオンも多く含まれます。グルタチオンには肝機能をアップさせ、細胞の老化やガン化を防ぐ働きがあり、美容成分としても注目されています。
部位ごとの特徴について
鱈は身だけではなく、白子や卵巣、内臓も絶品と余す事なく食べる事ができる食材です。
①精巣(白子)
「タチ」、「キク」などとも呼ばれる白子は、鱈の雄の精巣です。北海道ではマダラから獲れる白子を「マダチ」、スケトウダラから獲れる白子を「助タチ」とも呼びます。鱈1匹から獲れる白子の量はとても少なく、貴重な食品です。新鮮なものであれば生で食べるのがおすすめで、北海道の居酒屋や寿司屋では旬の時期になるとタチポンやマダチの寿司ネタなどが楽しめます。筆者はよく天ぷらにしたり、味噌汁に入れて味わってますよ。特に天ぷらは絶品で、作るたびに家族内で争奪戦が起きるほどです。
②卵巣
卵巣は主にスケトウダラの卵巣(写真右)のことを指します。「たらこ」はスケトウダラの卵巣、およびそれを塩蔵したものです。広義ではマダラ(写真左)も含みますが、一般にたらこと呼ばれるものはスケトウダラを指すことが多いです。北海道では助子(スケコ)とも呼ばれ、旬である冬の時期は生で流通し、子和えや煮付けなどに使われます。
③皮
皮は毎回残さず食べる方もいれば、残す派の方もいるかと思います。皮や皮と身の間にはコラーゲンやビタミンなど栄養素が豊富なため、食べることをおすすめします。ただし、鱈は水分量が多く鮮度落ちが早いため、生の鱈を購入した際に臭いが気になる場合は、皮をキッチンペーパーで拭いたり、皮を外して焼くと良いでしょう。
④内臓
鱈の内蔵で「肝」は鍋に欠かせない存在です。濃厚な味わいで、肝味噌にしたりソテーにしたりもできます。韓国では鱈の内臓をキムチのようにコチュジャンや唐辛子、ニンニクなどの調味料と一緒に漬け込んだ塩辛のことを「チャンジャ」と呼び、広く親しまれています。
タラを“干す”と栄養価はどうなる?
魚類は干すことで水分が抜け、旨味が増します。栄養価的にはタンパク質や脂質が凝縮されることで重量あたりのカロリーが増え、ビタミン類も凝縮されるものが多いですが、中には光や脱水によって目減りするビタミンも。 旨味成分であるアミノ酸は増えます。
栄養を逃さないおすすめの食べ方
鱈に含まれるビタミンB群やカリウムは、水やアルコールに溶けやすい性質を持っています。そのため、鍋や味噌汁をはじめとする汁物にすることで余すことなく摂取できるでしょう。
ビタミンDは脂溶性であるため、効果的に摂取したい場合はムニエルやホイル焼き、フライなど、炒め物や揚げ物で調理しましょう。
食べる際の注意点
鱈は寄生虫が多い魚であるため、食べる時に注意が必要な魚でもあります。
◆妊婦や子ども
鱈など白身魚に含まれる水銀量は少ないため、妊婦や子どもも通常通りの量を食べても問題ありません。ただし、鱈に限らず同じものを食べ続けると栄養に偏りがでるため、いろいろな種類のものを食べるよう心がけましょう。鱈には良質なタンパク質や栄養素がたくさん含まれているため、積極的に摂取していきたい食品です。
◆離乳食の場合は中期から後期以降に
鱈はタイやカレイと同じ白身魚ですが、食物アレルギーを引き起こす可能性があるため、離乳食中期から後期にかけて様子を見て少しずつ与え始めましょう。下ごしらえする際は骨と皮を丁寧に取り除き、茹でるなどよく加熱し、柔らかく仕上げてみてくださいね。
◆寄生虫には加熱を
鱈にはアニサキスとシュードテラノーバという寄生虫が寄生している可能性があります。寄生虫を食べると食中毒症状を引き起こし、激しい腹痛や嘔吐、下痢などの症状が現れます。寄生虫による食中毒を防ぐためには、加熱(70℃以上加熱もしくは60℃1分加熱)、冷凍(-20℃で24時間以上冷凍)を徹底しましょう。また、目視で幼虫の有無を確認する、新鮮なものを選ぶ、生食を控えることも予防には大切です。食中毒を防ぎ、美味しく味わいましょう。
美味しい鱈(タラ)の選び方と保存方法
美味しい鱈を見分けるポイントは、丸ごと鮮魚の場合は腹に弾力があるものを選んでみてください。また、切り身の場合は透明感と艶があり、薄いピンク色のものを選ぶのがおすすめです。
鱈の鮮魚は水分が多く鮮度落ちが早いため、購入後は出来るだけ早く新鮮なうちに食べましょう。保存する際は、身に塩を振り水分を拭き取った上でラップし、保存袋に入れ冷凍すると、2〜3週間長期保存できますよ。解凍する時は冷蔵庫で自然解凍すると旨みが逃げ出さず美味しく頂けます。すぐ調理したい場合は、お好みの調味料で下味をつけてから冷凍すると時短になりおすすめです。
北海道民のおすすめの食べ方
鱈の鮮魚は鍋料理、フィレはムニエルやフライなどで食べることが多いと思いますが、北海道ならではの食べ方といえば「タラのちゃんちゃん焼き」や「白子のポン酢和え(たちポン)」、生の卵巣はさっと煮た「子和え」にして食べることが多いです。
棒鱈(干物)の場合は、一晩水戻ししてから煮付けや汁物にしたり、クリームコロッケの具材として使用すると大変美味です。
干しコマイは焼いて一味マヨネーズをつけて食べたり、棒鱈同様に煮付けにしたり。生のコマイを三枚おろしにして身を冷凍した後、凍ったままスライスして「ルイベ」と言う北海道に古くから伝わる食べ方でもいただきます。
まとめ
北海道の冬を代表する魚「鱈(タラ)」の種類から栄養素とその働き、部位ごとの特徴やおすすめの食べ方などをご紹介しました。鱈の旬の時期である12月〜2月は新鮮な切り身や白子、卵巣がスーパーの鮮魚売場に並びますね。冷凍フィレや棒鱈は一年を通して購入することができます。高タンパクでビタミンD・B12など豊富に含む栄養的にもおすすめの魚ですので、普段の食卓に取り上げる機会を増やしてみてはいかがでしょうか。