疲労回復や滋養強壮のスタミナ野菜としてのイメージが強い「にんにく」。古くから世界中で食べられてきた食卓に欠かせないこの野菜について、アリシンやビタミン類などの知っておきたい栄養素とその働きはもちろん、黒にんにく、葉や芽の栄養価の違いについて管理栄養士の筆者が詳しく解説します。
美味しいにんにくの選び方や保存方法などのコツもお伝えしますよ。
目次
「にんにく」はどんな野菜?
中央アジア周辺が原産地として推定されているにんにく。紀元前の昔から親しまれてきたようで、古代エジプトでもにんにくが栽培されていたのではないかと言われています。ピラミッドづくりの増強剤の役目として食べられていたとか。
日本では紀元後900年代に中国から渡来したといわれていますが、当時の日本人にはその強烈な匂いが嫌われ、食用ではなく薬用として栽培されていました。
にんにくは春に植えて秋に収穫する野菜と思われがちですが、大きく成長するまで丸1年ほどかかります。植え付け時期は夏から秋にかけて。収穫は6月~8月となります。 秋ににんにくの鱗片をバラバラにしたものを1片植え、冬の寒い時期を地中で過ごしながら春に元気な芽を出し成長するのです。
北海道の在来種「ピンクにんにく」
北海道の在来品種と言われている「ピンクにんにく」。ピンク色をしているのは皮だけで、中までピンクという訳ではありませんが、寒冷地でもしっかり育つようなにんにくです。
ただ、本州産の真っ白なにんにくを植えても収穫時にはピンク色をしたにんにくが収穫できることもあります。真相はわかりませんが、北海道の寒さなどの条件がニンニクの皮をピンク色にするのかもしれませんね。
味は国産のにんにくと変わりません。やや大きさは小ぶりと言えるでしょう。
にんにくの栄養価と栄養素の紹介
にんにくの栄養価は100gあたり136kcal、タンパク質6.4g、脂質0.9g、炭水化物27.5g、食物繊維は6.2gです。糖質量は「炭水化物―食物繊維」で求められるため、21.3gです。
にんにくは意外と炭水化物(糖質)が多い野菜です。それもそのはず、丸ごとホイル焼きにした時のホクホクした食感はじゃがいものような口当たり。
その存在は「黒にんにく」という加工食品からもわかります。
にんにくを長期間低温熟成させると黒く変色し、ねっとり甘~いドライフルーツのようになりますよね。この甘さも炭水化物があってのことです。
ここからは、にんにくに含まれる栄養素を詳しくお伝えします。
①アリシン(硫化アリル)
アリシンは玉ねぎにも含まれる硫化アリルの一種です。ツーンとプーンとする刺激臭の原因でもあります。ただ、このアリシンは疲労回復に役立ち、抗酸化や抗菌作用を持ち、血栓の予防やコレステロールを代謝する働きもあります。
このアリシンは後述する「ビタミンB1」の吸収率を高める働きもありますが、アリシンは熱に弱い栄養素であるため、健康効果に期待する際は加熱をしない調理法がおすすめです。すりおろしたにんにくをドレッシングやソースに加えたり、焼き肉に乗せたり、スライスした生ニンニクをカツオのたたきに乗せたり!
ただし、アリシンは刺激物質のため、胃が弱い方は無理して生にんにくを食べないでくださいね。
②炭水化物
にんにくは野菜類の中でもトップクラスの炭水化物を含みます。にんにく100g中に炭水化物27.5gという数値は、じゃがいもの17.3gよりもはるかに多い数値です。
じゃがいもよりも炭水化物が多いなんて驚きですよね。
「糖質や炭水化物を控えないといけないからにんにくは食べられないな」と思ったあなた、安心してください。にんにくは少量使うだけで風味を付けられるほか、にんにくの風味で味付けを薄く抑えることができます。また、後述する「ビタミンB1」は糖質をエネルギーへと代謝するために必要な栄養素であるため、にんにく自体の炭水化物もエネルギーへと変えて消費することができますよ。たくさん食べなければ大丈夫です。
③ビタミンB1
にんにく100g中にビタミンB1を0.19㎎含みます。
ビタミンB1は糖質をエネルギーへと変換するときに必要な栄養素です。甘いものや炭水化物が好きな人は多く摂取することをおすすめします。 エネルギー産生の他にも、皮膚や粘膜を健康に保つために役立ちます。不足すると脚気という神経障害になったり、むくみを起こしやすくもなります。
④リン
リンはカルシウムと共に骨や歯を作ります。また、ビタミンB1と結合して等の代謝をスムーズに進めるためにも必要です。 にんにく100g中にリンを47㎎含みますが、成人の1日の摂取目安量は男性で1000㎎、女性で800㎎です。にんにくだけで摂取するのは難しいですし、にんにく自体にもそれほど多く含んでいるわけでもありませんが、いろいろな食材から少しずつ摂取することが大切です。
⑤そのほかの栄養素
にんにくからは葉酸、カリウム、ビタミンB2、鉄、亜鉛も摂取することができます。
ただし、にんにくは一度にたくさん食べるような野菜ではないため、料理の風味付けに使う程度だと栄養素もそんなに多く摂取できません。
リンの解説にも書いたように、様々な食品を食べることで栄養バランスが保たれますよ。
にんにくの葉や茎の栄養価
にんにくは鱗片だけでなく、若い茎(にんにくの芽)や若い葉(葉にんにく)も食べられます。「葉にんにく」は上部が緑色で下部は白く、見た目はねぎのようです。匂いは少なめで、ニラのように炒め物に使いますが、ニラより若干繊維質で食べ応えがあります。
「にんにくの芽」は、緑色の細長い棒状の見た目をしています。「芽」と呼びますが、厳密にいうと茎の部分です。にんにくの鱗片よりも臭いが少なめで、食感も柔らかく甘みを感じます。にんにくの芽が生で食べられる時期は初夏のほんのわずかな間だけ。その期間を逃すと硬くなり、食べられなくなってしまいます。生のにんにくの芽を見かけたら即買いしましょう!
にんにくの葉や茎はにんにくの鱗片よりもカルシウムやβ-カロテン、ビタミンK、C、葉酸を多く含みます。匂いも少なく、糖質量も少ないため量もたくさん食べられますよ。
黒にんにくやジャンボにんにくは普通のにんにくとどう違う?
「黒にんにく」は生のにんにくの鱗片を低温熟成させたもの。約2週間、70℃前後を保ちながらにんにくに含まれる炭水化物を糖化させることで、色は黒く、ねっとり甘く仕上がります。
黒ニンニクには生にんにくに含まれていない「S-アリルシステイン」というアミノ酸の一種が生成されます。強い抗酸化作用を持ち、疲労回復や安眠作用を持つと言われています。このことから、黒にんにくは「天然のサプリメント」とも呼ばれています。
「ジャンボにんにく」はその名の通り、大きなにんにくのこと。手のひらサイズはざらで、それより大きいものもあります。食べ応え抜群のジャンボにんにくですが、じつはにんにくとは別の植物です。匂いも少なく「無臭にんにく」とも呼ばれますが、洋ネギの「リーキ」と同じ種の植物なのです。匂いが少ないにんにくとして、ホイル焼きやグリルで楽しむと面白いですよ。
国産と外国産の違い
にんにくの主要産地は国内では青森県。国外では中国やスペインが有名です。スーパーに並ぶにんにくも、青森産か、中国産か、スペイン産がほとんどです。
価格帯は国産にんにくがダントツで高いですが、スペイン産はその2/3程度の価格、中国産は国産の半額以下といったところでしょうか。
国産にんにくは甘みが強く、風味も良いです。ホイル焼きにするとこの3つの中で一番甘味があってとろけます。
スペイン産のにんにくは若干紫色がかかっていて、北海度の在来のピンクにんにくと同じような見た目です。中身は真っ白ですよ。スペイン産の味は生で食べても加熱しても、においや辛味が強めです。
中国産はスペイン産よりもえぐみがあり、においも辛味もより強く感じます。
品種の違いもあると思いますが、このように産地で味が違います。
チューブ入りおろしにんにくや乾燥にんにくと生のにんにくの栄養価の違い
チューブに入った「おろしにんにく」には、ニンニクだけではなくいろいろな添加物が入っています。これは、品質を長期間維持するため。香料や酸味料、食塩も入っているため、生のにんにくと全く同じ味ではありませんが急いでいるときには気軽に使えますね。
様々なメーカーが「おろしにんにく」を出しているため、一概に栄養価を出すことはできませんが、生のにんにくよりも塩分が高く、他の栄養素は少なめです。
乾燥にんにくは生のにんにくをほぼそのまま乾燥させただけのものです。中国産が多く出回っていますが、探せば国産のものもあります。乾燥時に水溶性の栄養素は気化しやすい上、他の栄養素も思ったよりも凝縮されていません。乾燥にんにくは栄養素を期待するのではなく、ガーリックチップが食べたい時や風味付けに使ったり、保存食としてストックしておくと便利、くらいに思うと良いですね。
栄養素を逃がさず食べるおすすめの調理法
にんにくの栄養素を逃さず食べたい場合はやはり生がおすすめです。
加熱に弱いアリシンや、水溶性のビタミン類、脂溶性のビタミン類を失わないためには生が一番です。
ただし、にんにくは生のまま口にすると辛味が強く、一度にたくさん食べることも難しいです。にんにくは栄養価を期待しすぎないで、日ごろから少しずつ摂取することをおすすめします。
長く楽しむおすすめの保存方法
にんにくの貯蔵適温は3~5℃と言われています。温かい場所に置くと、芽が生えてしまい、にんにくの玉自体がしなびてしまう他、芽の部分は焦げやすいため料理に使いにくくなってしまいます。夏場は冷蔵庫での保存が好ましいです。
皮を剥き、下部の硬い部分を切り落とした後に密閉袋に入れて冷凍したり、使いやすいようにみじん切りやスライスにしてから冷凍しておくと、2~3か月は美味しく食べられます。使う際には解凍せず、凍ったまま調理しましょう。
美味しいにんにくの選び方
スーパーなどで美味しいにんにくを選ぶときにはお尻の方を見ましょう。
にんにくのお尻が平らであれば良いにんにくです。
ぼこぼこ盛り上がっているにんにくはやや採り遅れ。若干育ちすぎです。お尻が丸いと収穫時期が早かったかなと言ったところです。 見た目が変わるだけで味にはそれほど大差ありませんので安心してくださいね。
栄養満点!にんにくレシピ
古代エジプト時代から滋養強壮のために食べられてきたにんにく。栄養満点のにんにくを使ったレシピを紹介します。
◆ニンニクのホイル焼き
シンプルイズベスト!にんにくを丸ごとホイルで包んで炭火で焼くだけでホイル焼きができます。ただ、家庭で炭を使うのは難しいため、今回はオーブントースターで焼き上げます。
《材料(2人分)》
- にんにく 1個
- 塩 1つまみ
《作り方》
- にんにくの外側の皮を剥き、1片ずつバラバラにする。
- アルミホイルににんにくが重ならないように包む。
- オーブントースターの中火で10分程焼き、軟らかく焼ければ完成。食べる時は薄皮の上から塩を振り、枝豆のように歯でしごきながら食べましょう。
◆バーニャカウダ風ディップ
にんにくとじゃがいもを使ったバーニャカウダ風のディップです。じゃがいもを入れることでにんにくの風味を活かしながらねっとりとしたディップ状になります。
《材料(4人分)》
- じゃがいも 50g
- にんにく 50g
- 焼き塩サバ 50g
- 牛乳 50㏄
- オリーブオイル 50㏄
- 塩 1つまみ
- 黒コショウ 少々
- お好みの野菜 適量
《作り方》
- 小鍋にスライスしたにんにく、皮を剥き1㎝角に切ったじゃがいも、焼き塩サバ、オリーブオイルを入れて炒める。
- にんにくの香りがしてきたら塩・牛乳を加え、5分程煮る。
- 適度に冷めたらフードプロセッサーやバーミキサーで攪拌し、滑らかなペースト状にする。
- 皿に盛り、黒コショウを散らす。お好みの野菜をディップして召し上がれ!
まとめ
にんにくの栄養価から産地や種類による違い、美味しく食べる栄養満点レシピをまで紹介しました。
普段スーパーに並ぶ鱗片は香味野菜として日々の料理で大活躍しますが、にんにくは採りたて~2週間を「新にんにく」と呼びます。この時期は水分量が多く、ホイル焼きや素揚げにするとトロットロの食感に!にんにく好きならぜひ味わってみてください。