北海道を代表する魚介類といえば「ホタテ」。カニや鮭をイメージする方は多いと思いますが、北海道の海面漁業・養殖業の魚種別構成比において3割以上を占めるNo1の存在です。肉厚で甘い貝柱、歯ごたえのある貝ひも、クリーミーで味わい深い生殖巣。ご飯のおかずから珍味としてまで様々な食べ方で親しまれているホタテの栄養価とその効能について、管理栄養士の筆者が詳しく解説します。 ベビーホタテと稚貝の比較や栄養を効率的に摂取するおすすめの食べ方まで紹介しますよ。
目次
「ホタテ」の基礎知識
ホタテ貝ともよばれる二枚貝の代表格。扇形の貝殻に挟まれ、殻を開けると貝柱の周りには三日月状の「生殖巣(白は雄、橙色は雌)」、エラや心臓、上と下の殻の結合部の近くにある黒い部分は「中腸腺」や「ウロ」とよばれるホタテの消化器官です。中腸腺には有害物質が濃縮されていることもあるため、食べないようにしましょう。
貝柱全体の外側をぐるっと囲むように付いている「ホタテの耳」や「ひも」とよばれる部位は「外套膜(がいとうまく)」と言います。外套膜についている黒い斑点模様は実はホタテの目。外敵を感知するセンサーです。
ホタテに含まれるカロリーや栄養成分とその働き
ホタテのカロリーは可食部全体で100gあたり72kcal。刺身のように貝柱のみ食べる場合は100gで88kcalです。
貝柱100g中にはタンパク質を16.9g、脂質を0.3g、炭水化物を3.5g含みます。他にはカリウムが380㎎、葉酸を61μg含む食材です。
冷凍貝柱や貝柱だけで売っているホタテは使いやすいのですが、新鮮な生のホタテが手に入る時期には丸ごと食べることで栄養素をより多く摂取することができますよ。それではホタテに含まれる栄養素の詳しい働きを見ていきましょう。
①タウリン
タウリンは、人間の体内でも微量ではありますが作り出すことができる栄養素です。人間には体重のうち0.1%がタウリンの重量であるといわれるほど。心臓や肝臓、脳、筋肉、骨髄などの様々な臓器や組織に分布しており、生命活動に重要な役割をしています。
タウリンは滋養強壮や疲労回復を速める栄養素です。その効果は栄養ドリンクにも配合されているほどで、他にもアルコールの分解を早めたり、血液中のコレステロールの低下や胆石の生成阻止、神経の興奮抑制などいろいろな分野にわたって重要な働きをします。タウリンは魚介類に多く含まれていますが、水分と一緒に流れ出ていく性質があるので加熱する際は汁までいただきましょう。
タウリンの主な役割としては、肝臓で胆汁の生成を促進する働きが有名です。胆汁を生成する際に体内のコレステロールが多く消費されるため、血中コレステロール値を正常値に近づけることになります。また、肝臓は老廃物の分解を担う臓器です。アルコールの分解をする際は肝臓に大きな負担がかかるのですが、タウリンが肝臓の細胞を守り、再生させる力も持ちます。
②タンパク質
タンパク質は筋肉や体の組織、爪や髪の毛を構成する栄養素です。また、1g4kcalの熱量を持ち、体を動かすエネルギーにもなります。タンパク質が不足するとむくみや筋肉量の低下などが起こります。
魚のタンパク質は肉と比べると消化しやすいことが特徴なため、胃もたれをする人や運動前のタンパクチャージにも最適です。
③鉄
ホタテ貝柱には100gあたり0.2gしか含まれていない鉄ですが、ひもや生殖巣まで丸ごと食べることで100gあたり2.2gもの鉄を摂取することができることになります。この数字は卵(全卵)と同じくらいの含有量です。
鉄分は世界三大欠乏微量栄養素の一つと言われており、鉄分の他の二つはビタミンAとヨウ素です。日本人の食生活ではビタミンAとヨウ素の欠乏はあまり特別視しなくても大丈夫なのですが、鉄分は問題です。
特に月経中の女性の鉄分の必要量はそうでないときの3割増加します。鉄分を不足しないためには、常に鉄分を意識した食生活が大切です。また、鉄分は栄養素の中でも非常に吸収率が悪い栄養素です。鉄分の吸収率を高めるためにはビタミンCとの同時摂取がおすすめで、ビタミンCとの摂取をする事で吸収率が約3倍以上になります。
④亜鉛
ホタテ貝の可食部を丸ごと食べると2.7㎎、貝柱のみの場合は1.5㎎の亜鉛を摂取することができます。亜鉛は魚介類や肉類に多く、細胞の再合成や抗ストレス、免疫力アップに関わる栄養素です。細胞のターンオーバーをスムーズにすることから、味覚を正常に保つ働きや傷の治りを早くする働きもあります。
⑤ビタミンB群、葉酸
葉酸はホタテ貝の可食部丸ごと食べると87μg、貝柱のみの場合は61μg摂取することができます。ビタミンB群の中でも特にビタミンB12を含んでいますが、丸ごと食べると11.4μgと多く、貝柱のみの場合は1.7μgとなります。
葉酸は細胞分裂や増殖をスムーズかつ正常に進めるために必要なDNAの合成、タンパク質の合成を助ける栄養素です。ビタミンB12は鉄とともに貧血を防ぐ栄養素です。
部位ごとの比較
ホタテに含まれている栄養素とその働きについてお伝えしました。次は部位ごとの栄養価の特徴や食べ方についてお伝えします。
《貝柱》
貝柱は軟らかく旨味や甘みがあり、お寿司のネタの中でも人気です。タウリンをはじめとしたアミノ酸のバリエーションが多く、そのアミノ酸の種類がホタテ独特の甘味や旨味を作りだしています。貝柱には特にタンパク質が多いです。
《干し貝柱》
貝柱を干したものを「干し貝柱」と言い、100gあたり322kcal、1個5g程度ならば16kcalです。干すことでアミノ酸が増えて凝縮され、旨味の塊に!タウリンも倍増してより健康効果がアップします。干し貝柱はそのまま食べる他、水に戻して汁物やスープの出汁に使うことが多いです。
味が濃く感じるため塩分を気にする方もいるかもしれませんが、干し貝柱には塩は使われていないため塩分も少ないですよ。おつまみにチビチビ食べるのもおすすめです。
《貝ひも》
貝ひもは珍味として味付けされて乾燥して販売されています。コンビニやスーパーのおつまみコーナーを見ると簡単に発見できますよ。乾燥珍味の貝ひもの場合、100gあたり320kcal、塩分も100gで2g以上と大量に食べる場合は塩分の摂りすぎに注意しましょう。
生の場合はよく塩もみしてヌメリや臭みをとってから刺身やお寿司にしたり、バターで炒めて食べることもできます。
《生殖巣》
生殖巣には鉄や亜鉛が多く含まれます。クリーミーで濃厚な味わいと、ホタテの旨味や甘みが合わさり、ホタテの貝柱よりも生殖巣の方を好んで食べるという人も。北海道のスーパーでは、旬の時期には生殖層だけがパックに入って売っていることもあります。
生殖巣は生で食べる人は少なく、バター焼きや甘辛い煮つけ、卵とじなどにして食べられています。
ホタテの稚貝とべビーホタテの比較
次は、ホタテの稚貝(ちがい)とベビーホタテの違いは何なのかをお伝えします。どちらも小さなホタテガイではあるのですが、作る目的が違うため流通方法や食べ方も違います。
ホタテの稚貝
ホタテの稚貝はホタテの赤ちゃんのこと。ホタテは養殖されているものがほとんどなのですが、養殖する際に間引く工程があります。農産物と同じように、一つの場所にぎゅうぎゅうにホタテを入れておくと栄養や空間が足りずにしっかりと成長しないからです。
赤ちゃんホタテを間引いたものが「ホタテの稚貝」として流通し、殻付きのままみそ汁の具などに使われます。
ベビーホタテ
ベビーホタテはホタテの稚貝よりも1~2回り大きな小ぶりのホタテです。「ベビーホタテ」として養殖されているもので、一般的にはボイル後に冷凍されて流通しています。
小ぶりのホタテを佃煮にしたり、混ぜご飯や炊き込みご飯、茶碗蒸しに入れたりとそのまま使うことができるので便利な食材です。アヒージョやグラタンにもピッタリ!
栄養素を逃さない調理のコツ
ホタテに含まれる栄養素をお伝えしましたが、ホタテには水に溶け出る栄養素が多く含まれています。そのため、栄養素を逃がさないように調理方法を工夫することが大切です。水に溶け出る栄養素は汁ごと食べられる料理にすると無駄なく摂取が可能です。汁物以外には卵とじや茶わん蒸しが良いでしょう。
フライや天ぷらにするときは火を通しすぎるとホタテが縮んで水分が出てしまうため高温でさっと火を通すように意識すると良いです。
美味しく食べる上での注意点
ホタテは火を通しすぎると縮んでしまうと言いましたが、生のままよりも少し火を通した方が甘みや旨味を強く感じるようになります。炒め物は余熱で火を通す程度にしたり、沸騰したお湯にさっとホタテをくぐらせてから刺身やどんぶりにするなどがおすすめです。
もちろん、生のほたての食感やなめらかさが好きな方は生のまま食べても良いです。
栄養素を効率的に摂取するおすすめレシピ
美味しく食べる注意点と栄養素を逃がさない調理のコツを踏まえ、栄養を効率的に摂取できる簡単で美味しいレシピを紹介します。
◆霜降りホタテのカルパッチョ
沸騰したお湯に生のホタテをさっとくぐらせ、カルパッチョにしました。生との食べ比べをしても面白いですよ!(1人前108 kcal、塩分1.4g)
《材料(2人分)》
- 生ホタテ貝柱 5~6個(約100g)
- 赤玉ねぎ、レタス、ミニトマト 適量
- 塩 3つまみ
- 酢 小さじ1
- オリーブオイル 大さじ1
《作り方》
- 沸騰したお湯に生のホタテを入れてすぐに取り出し、氷水で冷やす。
- 皿の上にホタテを半分にスライスして並べ、レタスやスライスした赤玉ねぎ、ミニトマトを添える。
- 塩3つまみ、酢小さじ1、オリーブオイル大さじ1を小皿で混ぜ合わせ、全体に回しかける。
- ピンクペッパーを散らすと可愛く、風味も良い。
◆ホタテとキムチのキンパ
生ホタテとキムチを韓国風海苔巻きに!モリモリ食べられる海苔巻きになりました。ごま油を少量付けて召し上がれ。ホタテはごま油との相性も良いですよ。
(酢飯ではなく白いご飯の場合1人前537kcal、塩分1.8g)
《材料(1人前)》
- ご飯 1膳(酢飯でも可)
- 生ホタテ貝柱 4個
- キムチ 50~80g
- きゅうりの千切り 40g
- 海苔 1枚
- 白ごま 小さじ1
- ごま油 少々
《作り方》
- ご飯に白ごまを加えて混ぜ、「巻きす」の上に置いた海苔の上にまんべんなく広げる。
- 手前にキムチと適度な大きさに切ったホタテ、キュウリの千切りを置き、巻きあげる。
- 1.5㎝幅に切り、小皿にごま油を出して付けながら召し上がれ!
北海道のホタテを食べよう!
北海道のホタテは都道府県別の漁獲量第1位!オホーツク海側での養殖がメインですが、道南の八雲町や森町などでも盛んに養殖されています。1970年ごろまでは乱獲によって水揚げ量が振るいませんでしたが、養殖漁業が研究されて今では北海道における漁業の中の生産量全体の30%以上をホタテが占めています。
旬は栄養を蓄えている5月から8月の夏と、生殖巣が大きくなる12月~3月の冬ですが、養殖のため1年中安定して水揚げされています。
殻付きの生きたホタテは貝柱がサクッとした食感で旨味も強く絶品です。旬の時期に機会があれば、ぜひ活ホタテを殻付きのまま取り寄せてみてはいかがでしょうか。
まとめ
北海道生まれ北海道育ちの道産子管理栄養士がホタテの栄養価から簡単で美味しい栄養満点レシピを紹介しました。ホタテは低カロリー高たんぱく、健康にも良い働きを持つ栄養素がたくさん詰まっています。冷凍やボイルも含め、どこのスーパーでも買える食材です。北海道産のホタテ、是非たくさん食べてくださいね。