北海道及び東北地方で食される「鮭冬葉(とば)」。アイヌ語に由来すると言われる伝統的な冬の保存食ですが、現在はお酒にピッタリのおつまみとして手軽に買えるようになりました。昔ながらの伝統製法のものから、食べやすくしたソフトタイプまで様々な種類がある人気の珍味です。
今回は鮭とばの歴史から種類ごとの違い、食べ方や作り方までを詳しく紹介します。
目次
【鮭とば】について詳しく知ろう
鮭が北海道で食べられてきた歴史は、北海道の先住民「アイヌ」の人々が貴重な食糧として捕獲し食べていた1800年代にさかのぼります。北海道で漁獲される鮭の主な魚種はシロザケであり、「秋鮭」「トキシラズ」「アキアジ」という呼び名で親しまれています。
北海道における漁獲量は全国の約8割を占めています。サケは稚魚のうちに河川から海に出て、産卵期になると生まれ育った川に戻り交尾を行う「里帰り出産」の習性を持つ珍しい魚です。
また、「捨てるところが無い魚」として様々な部位を食べたり利用したりしますが、人間が食べるだけではなく、動物が食料として補食したり、産卵後の鮭の死骸は川の生物のエサとなって分解され、川や森の栄養素ともなるのです。
そんな鮭を使った加工品の「鮭とば」は、道産子にとってはお酒のつまみとして日常的に食される存在。筆者の家では、父親が晩酌の時に少しずつ歯でかみちぎりながら食べていたものを「ちょうだい!」とおこぼれをもらっては食べていた思い出があります。今となっては私も3人の子どもがいますが、子どもたちも鮭とばが大好き。塩分が強いので少しずつ与え、よく噛むようにと言い聞かせて食べさせています。硬さがあるのでアゴの発育に良いですよ。
料理としての歴史
「鮭とば」は鮭を原料にし、塩や少量の調味料を加えて作る保存食です。発祥はアイヌ民族の保存食で、北海道や千島列島に居住していたアイヌ民族がサケを縦に細かく切ってから海水で洗い、軒下に干して乾燥させ貯蔵していたそうです。シンプルな原料でシンプルな作り方だからこそ、素材本来の品質や工程の丁寧さが製品に表れます。 アイヌ民族が作る鮭とばはカチカチに乾燥しているものでしたが、今では調味液や干し方を工夫したものが出回っており、ソフトタイプや甘みが加わった塩分控えめの鮭とば、一口タイプやシート状に伸ばされたものも登場しています。
鮭とばの名前の由来
「とば」はアイヌ語で「トゥパ」という発音が由来だと言われています。「トゥパ」は「鮭を縦に細かく切り乾燥させたもの」という意味を持ちます。
味の特徴
「鮭とば」はグルタミン酸を豊富に含んでおり、旨味がたっぷり!噛めば噛むほど味が染み出てきます。また、皮にはコラーゲンも豊富。美容にもおすすめのおつまみですよ。
ただし、塩を使っているため塩分の摂り過ぎには要注意。保存料や人工甘味料などの食品添加物を加えて作る鮭とばもあるので、添加物を気にする方は食品表示をしっかり確認してから購入しましょう。
類似する商品
鮭とばによく似た新潟県の郷土料理「鮭の酒びたし」。
厳選した雄鮭のみを半身にして塩漬けにした後、水で塩を適度に抜いてから半年~1年間乾燥させたものが「酒びたし」です。食べる直前に日本酒をかけてから食べるという風習があったことから、「酒びたし」と呼ばれています。
薄くスライスしてあるため、そのまま食べるほか、素揚げしてせんべいのようにしたり炊き込みご飯に使用するようです。
塩蔵して半身のまま干した後にカットする「酒びたし」に対し、「鮭とば」は先に細かく切ってから海水で味を付けて干すという違いがあります。
鮭とばの種類について
鮭とばと一言で言いますが、種類は豊富に存在します。
オーソドックスな棒状の鮭とば「棒とば」のほか、シート状に伸ばして乾燥させてからイカそうめんのような短冊状にカットされたスティックタイプ、食べやすい皮無しタイプなど。鮭の形のまま干されている伝統的な鮭とばもおすすめです!
バリエーション豊かな鮭とばの中から、是非お気に入りの鮭とばを見つけてみてください。
①棒とば
スーパーや北海道のおみやげ品コーナーでよく見るのが棒とば。皮が付いたまま細く長くカットしてから味付けをして干す作り方です。この形は食べやすい上に作りやすく、鮭とばと言えばこの形が定番です。
②スティックタイプ
加工技術が進んでからできたのがスティックタイプです。味を付けた鮭をシート状に伸ばして乾燥させてから短冊状にカットしています。
硬すぎずに皮も付いていないため、子どもやお年寄りでも食べやすく人気があります。塩以外の原料を使うことが多いため、添加物を気にする人は食品表示をよく見ましょう。
③ソフトタイプ
ソフトタイプは鮭を塩だけでなく糖分を使用することで貯蔵性をそのままに、軟らかめに仕上げた鮭とばです。塩分が少なく甘さもあって食べやすいため、どんどん食べてしまいます!
④そのほか
鮭とばには上記以外にも、マスやタラ使ったものや、スパイスを利かせたビーフジャーキーに似た商品、鮭の半身のまま鮭とばにした商品(前項で触れた新潟県の「酒びたし」にとても似ています)なども存在します。 各メーカーによって若干製法が違い、味付けも違うため、いろいろな鮭とばを一度に食べ比べてみるのも楽しいですよ。
鮭とばの食べ方
鮭とばは袋から取り出したらそのまま食べることができる食品です。筆者もそのまま食べることがほとんどですが、それ以外の食べ方も紹介します。
定番でおすすめの食べ方はやはり、炙り!鮭とばの皮は硬くてゴムのように弾力があるため、そのままでは食べ辛いという人もいます。炙れば皮がパリッとして食べやすくなり、身も少し軟らかくなります。
皮を無理して食べると歯を傷める心配もあるので気を付けましょう。
自宅でできる「鮭とば」の作り方
鮭とばは自宅でも作ることができます。古くからある保存食ということで使う材料が少なく作り方も単純です。干す時間がかかるため、ゆっくり待てる人は自家製の鮭とばに挑戦してみてください。
まずは生の鮭(500g)を用意します。できれば雄の秋鮭を選びましょう。サーモンは脂分が多く酸化しやすいためおすすめしません。鮭の半身を使う場合は半身を縦細長く切り、切り身を使う場合は同じ厚さになるように切り身をより薄くするイメージで切り分けましょう。半冷凍にすると切りやすいです。
下ごしらえが終わったら味を付けます。塩分濃度10%の塩水(500mlの水に50gの塩を入れる)に30分間漬けて水を切れば味付けは終わり。甘めの味付けが好きな方は少し砂糖を混ぜても良いです。
味を付けた鮭を乾物ネットに乗せて1週間ほど干せば完成!なるべく涼しい、晩秋から春前に作るようにしましょう。気温が10度を下回る日が続くことが好ましいです。
衛生面が気になる方はオーブンを使うと良いですよ。100度のオーブンでひっくり返しながら4~6時間加熱したら完成です。2~3日冷蔵庫の中で干し、仕上げにお好みの硬さまでオーブンで1~2時間ほど加温乾燥させるという方法もあります。
鮭とばのカロリー・栄養・塩分
鮭とばの栄養価を紹介します。100gあたり300kcal、タンパク質54g、脂質6g、炭水化物7g、塩分2.8gです。乾燥させることで栄養素がギュギュっと凝縮されているため、魚介類にしてはカロリーが高めですが少しずつ食べれば問題ありません。塩分も高めのため1回に20~30gが適正量です。
加工品なので各メーカーや製法によって栄養価が変わります。それぞれの詳しい栄養価はパッケージの裏面に書いてある栄養成分表示を参考にしてください。
そのまま食べるだけじゃもったいない!おすすめレシピ
鮭とばは北海道民でもそのまま食べることがほとんど。ですが、旨味がたっぷりの食材であるため料理にアレンジしても美味ですよ!今回はレシピを2品紹介します。
◆鮭とば入りポテトサラダ
噛めば噛むほど鮭とばの旨味が染み出てお酒が進む味!おつまみにピッタリのポテトサラダです。ソフトタイプで作ることをおすすめしますが、しっかり乾燥している鮭とばを使用する場合は斜めに薄切りにした後、ひたひたの水で1時間ほど戻してから使用しましょう。(1人前:175kcal/塩分0.8ℊ)
《材料(2人前)》
- じゃがいも 中1個
- 卵 1個
- 鮭とば(ソフトタイプ) 20ℊ
- 牛乳 大さじ1
- (●)マヨネーズ 大さじ1
- (●)顆粒出汁 1ℊ
- 小ねぎ 少々
- 塩、コショウ 少々
《作り方》
- ジャガイモを良く洗い、鍋に入れる。ジャガイモが被るくらいまで水を入れ、中火にかける(レンジ加熱で軟らかくしても良い)。卵を冷蔵庫から出して常温に戻しておく。鮭とばを適度な大きさにキッチンバサミで切り、小皿に入れて牛乳で少し戻す。
- お湯が沸騰してきたら水があふれない程度に火を弱めて10分ほど茹で、卵も入れてもう8分茹でる。
- 卵を取り出し、冷水に入れる。ジャガイモに竹串がスッと通るようになったらジャガイモも冷水に入れ、皮を剥く。(皮ごとポテトサラダにしても良い)
- 殻をむいたゆで卵とジャガイモを一緒にボウルに入れる。
- ジャガイモと卵を荒くつぶし、(●)の材料と戻した鮭とば、牛乳を加えて塩とコショウで味を調えて完成。お好みで小ねぎを散らす。
◆鮭とばのオハウ
オハウ、とはアイヌ語で「汁もの」を差します。野菜や山菜と一緒に肉や魚を煮て塩で味付けをするのが本来のオハウです。旨味たっぷりの鮭とばを入れることで出汁がでてより一層おいしくなりますよ。野菜はお好みで長ネギやゴボウ、じゃがいもを入れても良いです。(1人前:59kcal/塩分1ℊ)
《材料(2人前)》
- 鮭とば 15g
- にんじん 1/6本
- 大根 1㎝弱
- きのこ類 お好みで
- 昆布 3㎝四方
- 塩 小さじ1/2
- 水 400ml
《作り方》
- 鮭とばを斜めの薄切りにする。
- にんじんと大根を食べやすい大きさに切る。いちょう切りがおすすめ。
- 鍋に昆布、鮭とば、食べやすく切った野菜ときのこ類を入れて弱火で煮る。
- 沸騰してきたら昆布を取り出し、野菜が軟らかくなったら塩を入れ、味を調え完成。
まとめ
「鮭とば」の特徴や歴史、種類の違いや自宅での作り方を紹介しました。北海道では子供からお年寄りまでが大好きな珍味です。今ではコンビニやドラックストアでも簡単に購入できますが、本場の伝統的な味をいくつか試してみると美味しさを再発見できますよ。アレンジレシピもぜひお試しください!