「1日1個の“りんご”は医者を遠ざける」。この有名なことわざがあるように、りんごを食べることが健康に良いことは古くから欧米を中心に知られています。近年ではプロシアニジン(ポリフェノール)といった機能性成分が注目されるなど、日々の食生活に取り入れておきたい果物です。今回は管理栄養士の筆者が、その栄養と効能について詳しく解説。皮まで食べた方が良い理由や栄養を効果的に摂取する食べ方、切ると変色する理由などの豆知識についてもご紹介します。
目次
【りんご】について詳しく知ろう
りんごの始まりは中央アジアと中国を中心とした山岳地帯と考えられており、日本には平安時代か鎌倉時代に中国から伝わってきたとされています。現在、りんごは青森県や北海道、長野県、岩手県など比較的冷涼な気候条件の地域で栽培され、国内の主要な果物として生産されています。青森県が国内生産量の約60%を占め、代表的な品種は「ふじ」「つがる」「王林」「ジョナゴールド」などが挙げられます。品種が多彩なりんごは世界で約15000種類、日本では約2000種類ほど栽培されています。生で食べることはもちろん、ジュース・ジャム・スイーツなど加工食品も豊富で、多くの人から愛されているりんご。しかし他の農作物と同様に生産者の高齢化が進み、労働力の確保や関連産業の維持・発展が重要な課題となっています。
【りんご】の栄養成分とその効能について
りんご(生、皮つき)は100gあたり56kcal、タンパク質0.2g、脂質0.3g、炭水化物は16.2g、うち食物繊維は1.9gです。炭水化物(糖分)やカリウムが豊富で、他にも抗酸化成分のポリフェノールが多く含まれています。
◆りんご由来プロシアニジン(ポリフェノール)
りんごにはポリフェノールが多く含まれており、活性酸素の害から細胞を守る抗酸化作用が備わっています。これは老化や病気を防ぐだけでなく、抗がん対策にも効果的な優れものです。りんごのポリフェノールはカテキンがいくつかつながったプロシアニジンが主成分となっています。強い抗酸化力があり、プロシアニジンは皮に多く含まれているため、皮ごと食べると効率よく摂取できます。
◆カリウム
りんごに含まれるカリウムは100gあたり120mg。カリウムは、ナトリウムと協力して細胞の浸透圧を維持したり、余分なナトリウムを体外に排出し、血圧を正常に保つ働きがあります。他にも腎臓からの老廃物の排泄を助けたり、筋肉の収縮をスムーズにする働きも担います。カリウムは水溶性で煮ると約30%が失われるため、カリウムを意識して摂る際は、生で食べるのをおすすめします。
◆食物繊維
りんご(皮つき)に含まれる食物繊維は100gあたり1.9g。皮なしだと100gあたり1.4gで、皮つきの方がより多く含まれます。
食物繊維は腸内環境をよくして、便秘予防や大腸ガンの予防効果もあります。また、糖質の吸収を緩やかにする、コレステロール値の上昇を抑えるなど生活習慣病予防にも役立ちます。
◆ビタミンC
りんごはビタミンCを100ℊあたり6㎎含みます。果物や野菜の中でも少なめではありますが、多少含んでいます。 ビタミンCはタンパク質から皮膚を丈夫にするコラーゲンを合成し、美肌作りに必要不可欠な栄養素です。その他にも免疫力を高めたり、鉄の吸収を助ける効果も期待できます。ビタミンCは水溶性で熱に弱く、2〜3時間で排泄されるため、毎食補うことが大切。りんごの場合はできるだけ生のまま摂るのがベストですよ。
りんごは皮ごと食べるのがおすすめ
りんごには皮つきの方が食物繊維が多く含まれると先述しました。また、りんごには食物繊維のペクチンが豊富に含まれており、これは腸内の乳酸菌を増やし、有害物質を排出する作用があります。ペクチンは皮により多く含まれるため、りんごの栄養素を無駄なく摂りたい場合は皮ごと食べることをおすすめします。
りんごの栄養成分を種類や調理法、他の食材と比べてみよう
りんごに含まれている栄養素やカロリーが分かったところで、りんごの種類ごとの栄養価の違いや調理法による栄養価の損失、ほかの果物と比較するとどの点が優秀なのかをお伝えします。
赤りんごと青りんごの栄養に違いはあるか
赤りんごと青りんごでは色や味は異なるものの、日本食品標準語成分表には品種による栄養成分の違いは記載されていません。品種による栄養成分あるいはポリフェノールなど機能成分の含有量には大きな差がないと言っていいでしょう。
生のままと加熱した場合、りんごの栄養成分に変化はあるか
りんごの栄養素をまるごと摂取するにはやはり生で食べるのが一番です。りんごを加熱すると、水溶性で熱に弱いビタミンB1やビタミンCは損なわれてしまいます。しかし、カリウムやポリフェノールなどは熱に強いため栄養が損なわれることはありません。
また、加熱して食べると柔らかく消化に良いため、病気の時や老人、小さいお子様には食べやすくおすすめです。
りんごジュースの栄養は
生のりんごより手軽に摂取することができますが、ジュースになることでビタミンCや食物繊維が大きく減少してしまう他、咀嚼せず摂取するためつい飲みすぎる、糖質の摂りすぎに繋がってしまいます。
さらに《果汁100%》の表示がないジュースは、栄養素も含まれる成分も全く異なるソフトドリンクとみなされ、本来りんごに含まれる栄養素はほとんどありません。そのため、りんごの栄養素を余すことなく摂取したいと考えるのであれば、やはり生で食べることをおすすめします。もし飲みたい場合は飲みすぎないよう程々に気をつけましょう。
梨・みかん・バナナと比べて栄養価やカロリーはどうか
りんごは和梨や温州ミカンと比べると炭水化物が多くカロリーは高めです。和梨にはあまり秀でた栄養素が含まれていないため、ビタミン類やミネラルはりんごに軍配が上がります。ビタミンCの含有量はミカンが優秀です。 バナナはというと、りんごよりも炭水化物を多く含んでいるためカロリーもりんごより高め。バナナは果物類の中でもタンパク質が多い食材で、100ℊ中に1.1ℊのタンパク質を含んでいます。
健康や美容・ダイエットにりんごがおすすめの理由
美容やダイエットにおけるりんごの注目すべき栄養素は、ポリフェノール・カリウム・食物繊維の3つです。
前述したようにりんごに含まれるポリフェノールのプロシアニジンは、強い抗酸化作用があり、また内臓脂肪を減らす働きがあると明らかになっています。
カリウムは体内の余分なナトリウムを体外に排出し、むくみを予防します。さらに食物繊維は腸内環境を整えて便通を良くする働きも期待できます。
栄養価を効率的に摂取するおすすめの食べ方
栄養価が高く様々な効果が期待できるりんご。皮にも栄養素が多く含まれるため皮ごと食べるのが理想的ですが、中には皮の食感が苦手な方もいると思います。その場合、すりおろしたりすることで食べやすくなるのではないでしょうか。また、「スターカット」と呼ばれるりんごを横にしてカットする方法で皮の面積を少なくし、食べやすくするのも良いでしょう。
その他にも、ジャムやコンポート、アップルパイなどりんごを加熱して食べるのもおすすめです。ポリフェノールは熱に強く、栄養が損なわれないのも嬉しいですね。さらに加熱する事で食物繊維のペクチンの抗酸化力が9倍になるという研究結果もあるそうです。
りんごを美味しく食べるためのQ&A
①美味しいりんごの選び方は?
果皮に張りがあって、全体的に色つやが良いりんごを選びましょう。また、手に乗せた時に重量感があり、果実を指で軽く弾くと澄んだ高い音がするものが良いでしょう。また、ツルが太く、ツル元が深くくぼんでいて変形していないものがおすすめです。
②りんごの表面がベタベタします。これは何?
表面を触るとワックスのようにベタベタするのは「油上がり」と呼ばれ、りんごが成熟すると増える「リノール酸」「オレイン酸」などの脂質が皮の表面に出てくる現象です。りんごから自然に分泌される天然の保湿成分で全く害はなく、品種では「つがる」や「ジョナゴールド」によく見られます。「王林」などは完熟しても油上がりは見られません。
③りんごの保存方法のコツは?
家庭ではポリ袋に入れてしっかり口を閉じ、冷蔵庫の野菜室などに入れておくのがおすすめです。口を閉じるのはりんごの水分の蒸発を防ぐ事と、りんごから出るエチレンガスが他の果物や野菜などの食材に影響が及ぶことを防ぐためです。エチレンガスは植物ホルモンの一種で、熟成を促す働きがあります。例えば、まだ熟してないバナナやキウイなどをりんごと一緒に保管すると、熟成が促されて食べ頃が早くなります。しかし、完熟後もエチレンガスの分泌が続くと、熟成しすぎて劣化や腐敗にもつながるため、りんごと他の野菜や果物を一緒に入れる際は注意が必要です。
④りんごを切ると変色する理由は?
変色する原因は、りんごに含まれるポリフェノールが皮をむいたり切断すると断面が空気に触れることで酸化し、最後に褐色になる「褐変」という現象が起きているためです。変色を防ぐためには、薄い塩水やレモン汁をつけるといいでしょう。塩水が苦手という方はハチミツを入れた水に浸したり、砂糖水に浸す方法もあります。甘くなることでお子様のおやつにもおすすめです。ただし、ハチミツ水に漬けたりんごは1歳未満のお子様には与えないようご注意ください。
⑤「1日1個で医者いらず」と言うけど、本当に毎日食べても大丈夫?
西洋のことわざで「1日1個のりんごは医者を遠ざける」と言われるように、昔からりんごには健康を維持する効果があると考えられてきました。毎日続けて食べることで高血圧やガン、心臓病、アレルギーの予防効果、血中ビタミンCの増加などが報告されています。
農林水産省で推奨されている食事バランスガイドによると、果物は毎日200gが目安とされています。りんごを毎日食べるのであれば2/3個(約200g)、他の果物も食べるのであれば1/3個(約100g)を目安に取り入れましょう。
⑥妊婦さんは食べても大丈夫?
厚生労働省「妊産婦のための食事バランスガイド」によると、妊娠中の果物の摂取量は妊娠初期は約200g、妊娠中期・後期は約300gを目安として推奨しています。りんごは1個約200gなので、1日のりんごの目安量は妊娠初期で1個、妊娠中期・後期で1個半となります。りんごをはじめ果物には妊娠中に大切なビタミンやミネラルなどの栄養素が多く含まれますが、果糖も多く含むため、食べる量には気をつけていきたいですね。
北海道のりんごを食べよう!
北海道のりんごの栽培面積は都道府県別の順位では7位で、余市町・仁木町・壮瞥(そうべつ)町などが代表的な産地として挙げられます。道外産は栽培面積の5割以上を「ふじ」が占める状況ですが、北海道では多彩な品種を栽培しています。しかも道産りんごは道外産に比べ酸味のある品種も多く、生食だけでなく料理や加工用としても優れもの。北海道に遊びに来た際は、ぜひ様々なりんごを食べ比べてみてください。
まとめ
りんごの栄養とその効能、美味しく食べるための方法などについてお伝えしました。筆者はバターでソテーしたりんごにはちみつを絡め、アイスを添えてシナモンをたっぷりかける食べ方が大好きです。ダイエットには勿論向いておりませんが、やみつきになる美味しさなので是非皆さんも試してみてください。