贅沢な海の幸といえば「カニ」。世界で最も人気のあるシーフードの一つです。高級食材でもあるため、食べる機会はそれほど多くなかったり、一度に大量に食べるわけでもないため、栄養面までは気にならないかもしれません。今回は管理栄養士の筆者が、意外と知らないカニの栄養と効能について詳しく解説。タラバ・ズワイ・毛蟹といった種類ごとの特徴や部位(身・殻・ミソ・卵)の比較、栄養を効果的に摂取する食べ方などについてもご紹介します。
目次
「カニ」について詳しく知ろう
年末年始やお祝い事で食べる機会が多く、贈り物としても人気のカニ。タラバガニ、ズワイガニ、毛ガニは言わずもがな有名ですが、名前は知っていてもそれらの違いが実はあまり分からない方も多いはず。まずはそれぞれのカニの特徴や美味しい食べ方を詳しく知っていきましょう。
①タラバガニ
「タラバガニ」は、漁場がタラの漁場(鱈場)と重なることからその名がつきました。タラバガニと花咲ガニは名称にカニがついてますが、実はヤドカリの仲間です。ただし見かけはカニによく似ており、カニ類は4対の【歩脚(ほきゃく)=あし】と1対の【鉗脚(かんきゃく)=ハサミ・ツメ】を持ちますが、タラバガニと花咲ガニは歩脚の1対が退化し3対のように見え、また右の鉗脚が巨大なのが特徴です。 タラバガニは身がしっかり詰まっており、食べ応えがあるため世界的に人気があります。焼きガニや、カニ鍋にしてボリューミーな脚を味わうのがおすすめ。また、カニと言えばカニ味噌を楽しむ方も多いと思いますが、タラバガニのミソは水分・油分が多いため美味しくないだけでなく、茹でる際に流れ出てしまうため目にすることはほとんどありません。
②ズワイガニ
「ズワイガニ」といえば冬の味覚の代表格であると思う方も多いのではないでしょうか。ズワイガニはタラバガニの資源減少に伴う缶詰原料の不足から需要が増した食用蟹の種類で、濃厚な旨味と甘味が特徴です。どんな調理法でも合いますが、特に旨味が引き出されるカニ鍋やカニの炊き込みご飯にすると格別です。 ズワイガニは水揚げされる港によってブランド名がつけられており、山陰地方で水揚げされたものは「松葉ガニ」、福井県沖で水揚げされたものは「越前ガニ」と呼び名が異なります。中でも越前ガニは、皇室に献上されたブランドズワイガニとしても有名です。また、福井県・兵庫県ではメスのズワイガニである「セイコガニ(セコガニ)」も有名です。身はオスに比べ少ないですが、オレンジ色の未成熟卵である「内子」と茶色の成熟卵である「外子」を持っており、カニミソも美味しく頂くことができますよ。石川県では「香箱ガニ(コウバコガニ)」と呼ばれています。
③毛ガニ
「毛ガニ」はその名の通り全身が毛で覆われたカニで、北海道全域で漁獲されていますが、中でもオホーツク海での漁が盛んになる3月から4月にかけての水揚げ量が最も多くなります。毛ガニは全てのカニの中でも群を抜いてカニミソが美味しいとも言われています。身は他のカニと比べると柔らかく崩れやすいため、鍋料理には向きませんがそのほぐし身は様々な料理に活かすことができます。駅弁でおなじみの長万部町の「かなやのかにめし」は、毛ガニの「煮かに」を弁当の代わりに売ることから生まれた北海道を代表する老舗グルメのひとつです。
④花咲ガニ
「花咲ガニ」は主に釧路〜根室で漁獲される、多数の棘に覆われたタラバガニの仲間です。熱を加えると花が咲いたように赤色になることからその名が付いたともいわれています。 食感がプリッとしていて身が厚く、味が濃厚なのが特徴。花咲ガニの鉄砲汁は道東地方に伝わる郷土料理として知られており、その発祥となった根室では「花咲がにてっぽう汁」の缶詰めがお土産として人気になっています。
カニの栄養成分とその効能について
毛がに(ゆで)100gあたり83kcal、タンパク質18.4g、脂質0.5g、炭水化物は0.2g、食物繊維は0gです。低カロリー高タンパクな食材である「カニ」に含まれる様々な栄養素について詳しく解説します。
◆ビタミンB12
毛ガニに含まれるビタミンB12は2.5μg。ビタミンB12は動物性食品に多く含まれ、葉酸と協力して赤血球を合成したり、神経系の働きを正常に保つ役割を持ちます。不足すると血液のもととなる赤血球が減るため、貧血の原因に。水溶性で体内に蓄積しないため、意識して毎食摂ることが大切なビタミンです。
ズワイガニやタラバガニは、ビタミンB12をより多く含みます。
◆亜鉛
毛ガニに含まれる亜鉛は100g中3.8mg。亜鉛は酵素の構成成分となって代謝に関わったり、味覚や嗅覚を正常に保つ栄養素として知られています。ミネラルに分類される亜鉛は体内で合成できないため、食事で補うことが必要な栄養素です。ビタミンAやタンパク質は亜鉛の吸収率を高める作用があるため、合わせて摂ることがおすすめです。
◆タウリン
タウリンは魚介類に多く含まれ、特に胆汁の分泌を促して肝臓の解毒作用を高めるアミノ酸類です。アルコール分解を助け、二日酔い防止などの疲労回復に効果的です。また、消化管内でコレステロールの吸収を抑える働きや、血圧を上げる交感神経の働きを抑えて高血圧の改善に働くなど、様々な効果が期待できます。
◆アスタキサンチン
アスタキサンチンには強力な抗酸化作用があり、活性酸素による細胞の劣化を防ぐ役割があります。抗酸化物質といえばビタミンEやビタミンCも抗酸化作用があるのですが、アスタキサンチンは他の抗酸化物質が通れない脳や目の中でも働くことができる抗酸化作用を持ちます。そのため、脳の衰えや脳疾患予防への期待が高まっている栄養素です。
◆カニの色が赤い理由
カニの色が赤いのは、アスタキサンチンという赤色の天然色素(カロテン)の一種によるものです。カニはアスタキサンチンを体内で生成できませんが、アスタキサンチンを作る藻やプランクトンを大量に食べることで食物連鎖で蓄積する性質があります。
部位ごとの栄養的な特徴について
カニに含まれている栄養素とその働きについてお伝えしました。次は部位ごとの栄養価の特徴や食べ方についてお伝えします。
①殻
カニの「殻」には赤色の天然色素であるアスタキサンチンの他にキチンやキトサンといった、キチン質、旨味成分のグルコサミンなどが豊富に含まれています。身を食べてしまった後もそのまま捨てず、出汁を取るなどして殻も有効活用しましょう。カニの出汁は鍋や雑炊は勿論、ラーメンなどお好みでどんな料理にも合いますよ。
②カニミソ
「カニミソ」と聞くとカニの脳みそのことだと思う方も多いのではないでしょうか。カニミソは中腸腺と呼ばれる消化や栄養吸収にまつわる内臓のことを指します。栄養価が高く、タウリンも多く含まれています。茹でたカニであればミソをスプーンですくってそのまま食べられます。パスタなどに和えても濃厚な味わいになりおいしいですよ。
ヤドカリの仲間であるタラバガニと花咲ガニは、カニミソに水分・油分を多く含む上に茹でると流れ出てしまうため、味わうことはほぼできません。
毛ガニ・ズワイガニ・ワタリガニで楽しみましょう。
③卵(内子と外子)
カニの卵には、「内子(うちこ)」と呼ばれる甲羅の内側にある未成熟の卵巣と「外子(そとこ)」と呼ばれる腹部(ふんどし)についている成熟した卵巣の2種類あります。それぞれ調理法が異なり、内子は塩漬け、外子はわさび醤油など醤油漬けがおすすめです。タラバガニと毛ガニは資源保護のため国内ではメスの漁獲が禁止されています。ズワイガニや花咲ガニ、ワタリガニは卵を楽しむことができます。
④カニ肉(身)の呼び方
カニの身は脚、爪、胴、肩、…と細かい部位に分別され、それぞれ名前もついています。部位ごとにそれぞれ特徴がありますが、多すぎて覚えられない!という方は親爪、棒肉を知っておけば大丈夫です。親爪はカニの右側の太い爪でプリッと弾力があります。棒肉は爪のない脚の部分で、身が太く旨味があって柔らかく、蟹しゃぶによく合います。
エビ・タコ・イカと比べると
カニに含まれる栄養素について説明しました。他の魚介類であるエビ、タコ、イカとも簡単に比較してみましょう。
どの食材も共通してタンパク質が豊富で低カロリーです。また、疲労回復に効果的なタウリンも多く含まれています。タンパク質が特に豊富なのがエビで、クルマエビだと100g中21.6gとやや高めです。カニの特筆すべき栄養素は亜鉛であり、100g中3.8mgと豊富に含みます。
ちなみにスーパーやコンビニなどで必ず見かける「カニカマ」は名前にカニがついているものの、主原料はスケトウダラなどの白身魚のすり身とカニとは全くの別物です。値段を抑えるため、殆どのカニカマに本物のカニ肉は入っておらず、そのかわりにカニエキスが加えられ、カニっぽさを再現しています。
栄養を効率的に摂取できるおすすめの調理法
上記でご紹介したようにビタミンB12やタウリンなど、カニに含まれる栄養素は水に溶ける性質が多いのが特徴。汁ごと食べれるカニ鍋や味噌汁、炊き込みご飯などが栄養をまるっと摂れておすすめですよ。
カニを食べる際に注意しておきたい点について
カニを食べたり、誰かにカニを食べさせたりする際に気をつけたいのが甲殻類アレルギー。食べる時は勿論、調理の際は原材料の確認を忘れないよう心がけることが大切です。
アレルギー
カニやエビをはじめとする甲殻類アレルギーは、成人では最も多いアレルギーの一つで、一度発症すると治るケースが比較的少ないといわれています。甲殻類アレルギーの症状は蕁麻疹や喉のかゆみ、嘔吐などさまざまで、重症化するとアナフィラキシーショックを引き起こし、急な血圧低下で意識を失うなど命の危機にもかかわる為、原材料のチェックは念入りに行いましょう。
妊婦の方、子ども
妊婦は魚介類を食べる際には胎児の発育に影響を与える可能性があるため、水銀の量に注意する必要がありますが、カニはその対象に含まれないため、食べること自体は問題ないと言えるでしょう。ただし妊婦は非妊娠時と比較して食中毒に感染しやすいため、生ものは鮮度が高いものを選ぶなど注意が必要です。
子どもは何歳から食べさせたらいいという基準はありませんが、アレルギーが出る可能性を考慮し、初めてあげる際は必ず加熱しましょう。また、生のものを与える場合は目安として3歳以降とし、必ず新鮮なものを選びましょう。アレルギー反応が出なかったからといって安心せず、様子を見ながら食べ進めてみてくださいね。
最後に
カニの栄養素から部位ごとの特徴、おすすめの食べ方などをご紹介しました。
北海道を訪れる人が楽しみにしている味覚の代表的なものの一つに「カニ」があります。道内では1年を通してどこかの地域で漁が行われており、根室市や長万部町、広尾町など有名なカニの漁獲地域ではイベントやお祭りが開催されていたりします。北海道を訪れる際はぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。