古くから縁起物としておせち料理や結納の際に食べられてきた「数の子」。黄色いダイヤと呼ばれるほど高級な食材でもあり、食す機会やその量も多くないことから、栄養価について気にする人はそう多くないかもしれません。今回は管理栄養士の筆者が、EPAやDHAなど数の子に含まれる栄養素とその働きを詳しく解説します。いくらやたらこなど、その他の魚卵との比較や「子持ち昆布」との関係性など豆知識もお伝えします。
目次
【数の子】について詳しく知ろう
独特の食感で無数の小さな卵の粒が集まっている数の子。好みが分かれる魚卵の一つでもありますが、実は体にうれしい栄養素がギュギュッと詰まっています。まずは数の子の親についてや名前の由来、産地などを紹介します。
数の子とは
「数の子」はニシンという魚の卵(卵巣)です。ニシンは青魚の一種で、冷たい海域に住む回遊魚。日本では北陸地方から北海道にかけてを回遊していますが、3~5月に産卵のために北海道にやってくるニシンが最もおいしいと言われています。
ニシンは細長くて肉厚の20~30㎝程度の魚です。マイワシに似ていることから「カドイワシ」と呼ぶ地域もあります。産卵のために北海道にやってくるニシンが最も美味しいと言われています。
名前の由来
古くから東北や北海道ではニシンのことを「カドイワシ」「カド」と呼んでいました、数の子は「かどのこ」から変化した呼び方と言われています。その卵巣の加工品には干し数の子、塩数の子、調味料で漬けた味付け数の子などがあります。干し数の子は北海道のニシン漁の衰退とともに生産量は減少して食べる文化も少なくなりました。現在では輸入ニシンから主に塩数の子と味付けカズノコが生産され、卵を取り出した後に「身欠きにしん」が作られています。
主な産地
数の子の主な産地は北海道のほか、カナダやアメリカ、ロシア、オランダなどが有名です。ただし、大西洋と太平洋に生息するニシンはそれぞれ種類が違うため、食感が違います。大西洋のニシンの卵の方が軟らかく、太平洋のニシンの卵は硬いという特徴があります。
大西洋産のものは主に味付け数の子に加工され、食感が良く型崩れの少ない太平洋ニシンは塩蔵数の子として加工されることが多いです。北海道で獲れるのは太平洋ニシンで、粒張りが良いのですが流通量が少ないため、高級品として扱われています。
原料になるニシンの多くはカナダやアラスカなどで獲れたものを輸入し、北海道の加工場で身と卵を分け、それぞれの加工を行うことも多く、塩蔵数の子は全国の約8割が北海道で生産されています。
縁起物?おせちで食べる理由
数の子はおせち料理に必ずと言っていいほど入っています。その理由は「縁起の良い食べ物」として昔から愛されているから。ニシンは卵をたくさん産む魚として知られていたため、「子孫繁栄」「子宝に恵まれますように」という思いを込めてニシンの卵である数の子をお正月に食べてきたそうです。
ニシンについての豆知識
数の子はニシンの卵、ということはメスしか数の子を持ちません。オスはというと、旬を迎えたオスの腹には白子がパンパンに詰まっています。数の子もそうですが、ニシンは魚体のサイズにそぐわないほど大きな卵巣・精巣を持っています。白子好きにはたまらないお魚ですよ。
白子の味はというと、クリーミーながら濃厚すぎずにあっさりと食べられる印象です。青魚特有の香りも少しありますが、好きな人であれば気にならないと思います。白子にはタンパク質が豊富なほか、抗酸化作用が強いビタミンEを含んでいますよ。脂質の量は少なめなのでヘルシーです!
【数の子】に含まれる栄養素とその効能
数の子は100gあたり162kcal、タンパク質は25.2g、脂質は6.7g、炭水化物は0.2g、食物繊維は0g含みます。魚卵と聞くとカロリーが高く脂質も多いイメージかもしれませんが、数の子は意外とヘルシーですよ。いくら100gにはエネルギーを272kcal、脂質は15.6gも含むため比べてみると差は歴然ですね。 数の子もいくらも、生の味が付いていない状態の栄養価です。味付け数の子、醤油漬けのいくらとなると少々栄養価が変わります。
◆不飽和脂肪酸(DHA,EPA)
「魚は頭にいい!」という言葉を聞いたことがある人は多いはず。これは青魚に特に多く含まれている脂肪酸のDHAとEPAが多く含まれていることが理由です。DHAは「ドコサヘキサエン酸」、EPAは「エイコサペンタエン酸」を指します。DHA・EPAはヒトの体内では作り出すことがほとんどできない必須脂肪酸の一種です。魚の脂に含まれており、生活習慣病の予防や改善に役立つ脂質です。特に、DHAは記憶力の維持や乳幼児期の脳の発達に役立ち、EPAは血栓予防や高脂血症の予防、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞の予防に役立つ脂肪酸です。
ニシンも青魚であるため、ニシンの脂質にも不飽和脂肪酸であるDHA・EPAが豊富に含まれています。よって、ニシンの卵である数の子の脂質にもDHA・EPA が含まれています。
数の子はマグロのトロ部位よりも多くのDHA・EPAを含むため注目されています。
◆タンパク質
数の子はニシンの身よりも多くのタンパク質を含みます。タンパク質は言わずと知れた人体に必要な三大栄養素の一つ。体の60%は水分でできていますが、タンパク質は15~20%を占めています。1g4kcalの体を動かすエネルギーになるほか、筋肉や体の組織、爪や髪の毛の健康を維持する栄養素です。
タンパク質が不足するとむくみや筋肉量の低下などが起こります。
魚のタンパク質は肉と比べると柔らかいため消化しやすいことが特徴です。
◆CoQ10とルテイン
数の子に含まれている脂質には、「CoQ10(コエンザイムキューテン)」と「ルテイン」という機能性成分も微量ですが含まれています。
ともに強い抗酸化作用を持つ物質ですが、CoQ10は細胞を酸化から守ってくれるビタミンのような働きを持つ物質です。数の子は食品の中でもトップクラスの含有量です。
ルテインはカロテノイドという色素成分の一種で、目の網膜や水晶体に多く存在します。目を守るために働く栄養素です。
◆ビタミン類
生数の子はビタミンB群を多く含む食材です。なかでもビタミンB2が0.22g、ナイアシン当量を10㎎、ビタミンB12を11.4g、葉酸を120μℊも含みます。ただし、これは「生」の数の子の場合です。味付け数の子や塩蔵、干し数の子などの加工された数の子には半分しか入っていない栄養素もありますので、新鮮なニシンの卵になら期待することができます。
ビタミンB2は糖質、脂質、タンパク質をスムーズにエネルギーに変換するために必要な栄養素です。特に脂質の代謝を助けるため、脂質を多く含むニシンに多く含まれていることは理にかなっていますね。「発育のビタミン」とも呼ばれており、乳幼児の発育に欠かせない栄養素でもあります。
他の魚卵類との比較。気になるプリン体やコレステロール、塩分について
独特のプチプチとした食感や味わいを楽しめる魚卵。数の子の他にもいくらやたらこなど、美味しい魚卵はたくさんあります。種類ごとのカロリーや気になるプリン体の量についてご紹介します。
①数の子
生のかずのこは100gあたり162kcal、タンパク質25.2g、脂質6.7g、炭水化物0.2g、プリン体21.9mg、塩分0.8gを含みます。
数の子のプリン体量は100g中22㎎と少ないですが、コレステロール量は100g中230㎎含んでいます。数の子は一度に食べる量がまあまあ多いため、コレステロールを気にする人は食べる量に気を付けましょう。
②いくら・筋子
サケ・マスの卵であるいくらと筋子。いくらは100gあたり252kcal、タンパク質32.6g、脂質15.6g、炭水化物0.2g、プリン体3.7mg、塩分2.3gを含みます。
筋子は100gあたり263kcal、タンパク質30.5g、脂質11g、炭水化物0.2g、プリン体3.7mg、塩分2.3gです。 いくらと筋子のプリン体の値は意外と低く、驚かれた方も多いのではないでしょうか。他にもタンパク質やビタミンAなど、栄養が豊富ないくらと筋子。ただし、たらこと比べて脂質は高いため、食べ過ぎには注意が必要です。
③たらこ
たらこは100gあたり140kcal、タンパク質は24g、脂質は4.7g。いくらよりもずっと脂質の含有量が低く、1/3以下です。いくらが含むビタミンB1が0.42㎎であることに対し、たらこは0.71㎎、ナイアシン量は0.1㎎なのに対してたらこは49.5㎎も含みます。
ただし、コレステロール量は100g中350㎎、塩分は4.6gであるため食べ過ぎには注意が必要です。
④明太子
明太子は100gあたり121kcal、タンパク質21.0g、脂質3.3g、炭水化物3.0g、プリン体159.3mg、塩分5.6g。
明太子はたらこと似た値ではありますが、塩分とプリン体がやや高めです。食べ過ぎには気をつけつつ、食べ合わせやバランスを工夫して美味しく食べましょう。
⑤コレステロールについて
数の子のコレステロールはほかの魚卵の中でも少なく、いくらの約半分の量です。
100ℊあたり、いくらで480㎎、筋子で510㎎、たらこで350㎎のコレステロールが含まれていますが、数の子は249㎎程度です。いくらやたらこと違い、数の子は一度に食べる量が多い傾向がありはしますが、数の子にはコレステロールの量以上のコレステロールを適正値に下げるような栄養素が含まれています(DHA、EPA、CoQ10やルテインなど)。そのため、数の子を食べる際にはコレステロール値はさほど気にしなくても良いでしょう。
加工による特徴の違い
数の子は生の状態だと鮮度が落ちやすいため、漁獲後すぐに身と離されて加工されます。加工の方法も食べ方や保存期間に合わせて何種類かありますよ。それぞれがどんな作られ方で、どんな食べ方をされているか、栄養や塩分の違いをお伝えします。
干し数の子
「干し数の子」の存在を知らない人も多数だと思いますが、干し数の子は数の子が硬くなるまで浜風や乾燥機で干したものです。1㎏3~4万円もする高価なものですが、伝統的な旅館や本物の味を求める方に愛されています。プチプチ感と噛み応えは塩蔵数の子とは違った食感です。
100ℊあたり385ℊ、タンパク質は65.2ℊ、脂質は13.6ℊ、食塩相当量は3.6ℊです。 干し数の子は水で戻すと3~3.5倍にふくらみます。濃い目の塩水に浸して冷蔵庫に入れるなどして低温でゆっくり水戻ししていきます。1日に塩水を3~4回変えることを3~4日間行うため、手間が多い!最後は真水で戻してから味付けします。
塩蔵数の子
「塩蔵数の子」は塩抜きするために水戻しすることで栄養素が流れ出てしまうため、生の数の子よりも栄養価が低くなります。たっぷりの水に半日から1日漬け、程よく塩が抜ければ完成です。その後、味付けして「味付け数の子」となります。
塩蔵数の子の水戻ししたものは食塩相当量は1.2ℊです。
味付け数の子
「味付け数の子」は上記の通り、干し数の子や塩蔵数の子を戻した後に調味液に漬けることで味を付けます。
出汁と薄口しょうゆ、酒、みりんを合わせた漬け汁に数の子を漬け、2日ほどなじませれば完成。塩分は100ℊあたり2ℊ程度です。
「子持ち昆布」は数の子の仲間?
「子持ち昆布」という食品をご存じでしょうか。普段は食べることは少ないと思いますが、おせち料理に入っていることが多いはず。「昆布の卵」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、ニシンが卵を産み付けた昆布に味を付けたものです。
ニシンは卵を岩場や昆布に産み付ける習性があります。その際、卵が流されないように粘着性のある物質と一緒に産み付けられます。「子持ち昆布」はこのようなニシンの習性を使うことでできる珍品なのです。ただ、きれいに昆布にびっしりと卵を産み付けることは自然には難しく、「子持ち昆布」は産卵期を迎えたニシンを入れた生け簀に昆布を入れることで卵を付着させています。
子供の日は「数の子の日」?
2015年に5月5日が「かずの子の日」に登録されました。
数の子は古くから縁起物として食べられてはいましたが、お正月を過ぎると食べる機会が減ってしまうことが数の子加工業者の悩みの種でした。そこで、数の子を日常的にもっと食べてもらおうと、数の子産地や加工業者団体が「かずの子の日」の制定に乗り出しました。
子孫繁栄にちなみ、こどもの日と同じ5月5日が「かずの子の日」と制定されています。
北海道の数の子を食べよう!
ニシンは国内の漁獲量が激減して食べる文化が少なくなってきたことから、数の子の流通量も一昔前よりぐんと減ってきました。北海道産の数の子は大変貴重ですが、粒の大きさやプチプチとした食感は食べる価値アリです。
生のニシンを購入した際、旬の時期であればお腹に生の数の子が入っている場合もあります。生の数の子は身から取り出して塩焼きにし、シンプルに召しあがっていただきたい逸品です。味付けの数の子とは違った「ボリッ」とした食感と、癖がないけれどじんわり出てくる魚卵の旨味に驚くはず。数の子好きにはぜひ「生の数の子」も体感していただきたいです。
また、筆者がおすすめの数の子加工品は「松前漬け」。イカや昆布を細く切ったものを醤油やみりんで作った漬け汁に入れて作るご飯のお供ですが、これにも数の子が入っている商品が多くあります。たっぷり数の子を入れている松前漬けがイチオシです。
まとめ
北海道生まれ北海道育ちの道産子管理栄養士が「数の子」についての栄養価や豆知識をお伝えしました。「かずの子の日」はまだまだ知名度が低いですが、こどもの日には食卓に美味しい数の子を添えてみるのも話の種となり面白いですよ。
見た目によらず私たちの体に有益な栄養素をたっぷり含んでいる数の子です、健康のためにも是非日常的に食べてみてくださいね。