「菊芋(キクイモ)」は、最近注目されているスーパーフードの1つです。「天然のインスリン」とも呼ばれる自然界の多糖類の一種であるイヌリンを多く含み、食物繊維も豊富なことから腸内環境の改善も期待できてダイエットにもおすすめの食材。今回は管理栄養士の筆者が、菊芋の栄養とその効能を詳しく解説。おすすめの食べ方や保存方法などについてもご紹介します。
目次
【菊芋(キクイモ)】について詳しく知ろう
普段から食べているという人は少ないかもしれませんが、「なんとなく体に良い野菜」として認知されてきている「菊芋」。まずはどんな野菜なのか、いつから食べられるようになったのかなどを解説します。
【菊芋(キクイモ)】とは
「菊芋」はキク科ヒマワリ属の多年草です。カナダ東部〜アメリカ北東部が原産とされており、江戸時代の末期頃に日本に渡来し、食用・アルコール原料用及び家畜の飼料用の作物として植えられました。第二次世界大戦中に全国に広まり、現在は各地の道路沿いなど様々なところで自然繁殖しています。荒地でも育つほどに繁殖力が非常に強く、野生化した菊芋は在来種の生存を脅かす危険があるため、「外来生物法」で「要注意外来生物」に指定されています。
菊芋にも種類がいくつかあり、大きく分けると「白色種」と「紫色種」に分けられます。白色種は生姜のような薄い黄褐色で、紫色種は全体的に薄い紫色をしています(フランス菊芋、とも呼ばれる)。紫色種の方がイヌリンの含有量が多く、抗酸化物質であるポリフェノールも含まれています。
旬の時期
菊芋は寒い地域でも土の中で越冬できる野菜です。秋に根が大きくなり、春には新芽がでてまた花を咲かせます。秋の肥大期を過ぎた11月ごろからはいつでも収穫ができますが、雪の降る地域では雪が溶けた4月ごろに収穫されることも。春の菊芋の方が甘いと言われています。
味や食感
菊芋の味はほんのりと甘く、ヤーコンと似たような味です。スイカの皮近くの白い部分をもう少し甘くした感じとも言えます。菊芋は英名で「エルサレムアーティチョーク(Jerusalem artichoke)」と呼ばれます。なるほど、確かにアーティチョークも薄甘く、菊芋に似た風味を持っていますね。
食感は生で食べるとシャキシャキしておりサラダにぴったり。茹でたり揚げたりするとほんのりホクッとした食感が加わり食べやすく感じます。
他のいも類と異なる点
菊芋は「いも」類ではありますが、いもと呼ばれて想像する代表的なものとは異なる味と食感です。それもそのはず、じゃがいもやさつまいもには澱粉質が含まれていますが、菊芋には澱粉はほぼ含まれません。その反対として、菊芋に含まれる炭水化物は食物繊維がほとんどで、イヌリンが多く含まれているのです。
また、じゃがいも・さつまいもに比べて芋が大きくなりづらく、収穫量は少ないです。
地域によっては別名がある
菊芋は地域によって呼び名が違うことがあります。からいも、ぶたいも、しょうぶいも、はないも、いもひまわり、アメリカいもなどさまざま!
地方の直売所を覗いてみると上記のように呼び名で売られていることもあるため、菊芋と同じような見た目をしている農産物があったら名前をチェックしてみてください。
【菊芋】の栄養成分とその効能
生の菊芋100gあたりのエネルギーは35kcal、含まれる栄養素はタンパク質は1.9g、脂質は0.4g、炭水化物は2.3g食物繊維は2.2gです。
糖質量は「炭水化物―食物繊維」で求められるため、なんと0.1g。一般的なイモ類とは違い、デンプンはあまり含まれません。カロリーも糖質量も芋類の中ではダントツに低い数値です。その他の栄養素は秀でたものは少ないですが、カリウムは100g中610mgと多めです。ここからは菊芋に含まれるそれぞれの栄養素について詳しく解説します。
◆イヌリン(フラクトオリゴ糖)
菊芋はスーパーフードとして注目されている野菜ですが、特別な栄養成分としては「イヌリン」という多糖類(フラクトオリゴ糖)が特徴的です。菊芋に含まれる炭水化物のうち15%がイヌリンとも言われています。イヌリンには腸内の有害物質の排出を促し、善玉菌を増やす効果が期待できます。
イヌリンは「天然のインシュリン」とも呼ばれており、イヌリンが小腸で糖の吸収を妨げる事で食後の血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。また、血中の中性脂肪の低減にも働く嬉しい栄養素です。
◆食物繊維
菊芋に含まれているイヌリンも食物繊維(水溶性食物繊維)ですが、そのほかにも食物繊維が多く含まれており、菊芋は100g中に2.2gの食物繊維を含んでいます。食物繊維は腸内環境を整えたり、便の量を増やしお腹のスッキリ感を与えてくれたり、腸の蠕動運動を促して便秘の改善に働きます。
食物繊維は野菜や大豆、果物、海藻などに含まれているため何かと摂取しているのですが、実際は1日に摂取するべき平均摂取目安量19gに対して4.5g不足しているというデータが出ています。食物繊維は意識して多めに摂取することをお勧めします。
◆カリウム
菊芋100g中にカリウム610mgが含まれます。カリウムは不足する事が少ない栄養素ではありますが、人体にとっては重要な役割を担っています。カリウムは食事から摂取した塩分のうち、過剰な分を体内から取り除く働きを持ちます。高血圧症の予防や改善にも働く栄養素です。 むくみや痙攣の改善にも役立ちます。
【菊芋】の栄養を効率的に摂取する調理法
菊芋に含まれるイヌリンは水溶性食物繊維です。水溶性の栄養素は茹でると水に流出してしまいます。このため、菊芋は茹でたり煮たりするよりも、素揚げや電子レンジでチンすることをお勧めします。
また、菊芋を調理するレシピの中でアク抜きをしているレシピもありますが、アク抜きの過程で水に晒してしまうと栄養素が流れ出てしまいます。アクの正体もポリフェノールという抗酸化物質であるため、ほんのりとしたえぐみや土臭さも菊芋の味として楽しんでください。
「皮」は剥かずに綺麗に洗えば丸ごと食べられます。皮にもポリフェノールが含まれていますよ。もし皮や土が残っている部分が気になるのであれば、スプーンを使ってこそげるように削りましょう。
【菊芋】のおすすめの食べ方
菊芋は生のままでもシャキシャキしていてクセはなく、加熱しても美味しいですよ。味噌汁やカレーに入れるという手軽な食べ方もありますが、ほかにも管理栄養士がおすすめの食べ方を紹介します。
①菊芋のポタージュ
じゃがいものポタージュ(ビシソワーズ)と同様に作ってみてください。菊芋と少量の玉ねぎをバターで炒め、火が通ったら牛乳と一緒にミキサーにかける。塩やコンソメで味を整えて完成!菊芋だけで作ると香りが気になる場合、半量をじゃがいもやさつまいもに代えて作ると良いです。
②菊芋のフライドポテト
食べやすい大きさに切った菊芋を素揚げし、塩をかけるだけ!油との相性が良いため、スライスした菊芋を天ぷらにしたり、フライにしても美味しいです。
③生でサラダに!
菊芋を生のまま皮を剥き、千切りやスライスしにしてお好みのドレッシングと和えれば完成!菊芋だけで食べるよりも、きゅうりやトマト、レタスなど他の野菜と一緒に食べることでより食べやすくなりますよ。
【菊芋】の選び方と保存方法
美味しい菊芋を選ぶためには乾燥していない、実が大きくて締まったものを選ぶと良いです。洗った菊芋よりも、土付きの菊芋の方が長持ちしますよ。土付きの菊芋の購入後は洗わず新聞紙で包んで冷暗所へ。マイナスにならないなるべく寒い場所がおすすめです。寒い期間は土に埋めると長期保存もできます。洗ってある菊芋は冷蔵庫で保存し、早めに食べ切りましょう。
長期保管であれば冷凍保存もおすすめです。菊芋を洗い、すぐ食べられるように皮の汚い部分をこそげてから食べやすい大きさに切って冷凍します。凍ったまま煮物や炒め物に使うと良いです。 乾燥野菜にする保存方法もあります。下処理した菊芋をスライスしてザルに広げ、天日で干し、カラカラに乾燥したら保存袋で密閉し冷暗所に保存します。
庭があったら自家栽培もおすすめ
菊芋は栽培が簡単な作物です。庭や畑があれば、隅で栽培してみるのも良いでしょう。ただし、栽培後に収穫せず放置してしまうとどんどん増えていき、他の作物に悪影響を及ぼすことも。近隣にも迷惑がかからないかどうかをよく考えてから植えるようにしましょう。
まとめ
スーパーフードとしても注目を浴びている菊芋(キクイモ)について紹介しました。栽培に関しては若干厄介者扱いされていますが、菊芋に含まれている水溶性食物繊維「イヌリン」は体に嬉しい働きをたくさん持っています。
菊芋は繁殖能力が高く、全国どこでも育つため各地で農家が小規模で栽培していますが、直売所以外では生鮮食品として手に入れることは難しい食材です。スーパーや八百屋で手に入らない場合は生産者からの直接のお取り寄せか、加工品を購入することをお勧めします。