滋養強壮の薬、縁起物として古くから親しまれてきた「ゆり根」。おせち料理として食べることはあっても、普段の食卓に上る機会は少ないはず。実はカリウムや鉄といったミネラルが豊富で、加熱すると甘くてホクホクとした食感が特徴の美味しい野菜なのです。
そんなゆり根の持つ栄養素とその働き、保存のコツやおすすめの食べ方について管理栄養士の筆者が詳しく解説します。この記事を読むとより身近な食材に感じられ、食べたくなるはずです。
目次
ゆり根ってどんな野菜?
ゆり根は、鱗片が重なっていることから「年を重ねる(長生きする)」「子孫繁栄」といった意味をもつ縁起の良い野菜として知られ、お正月料理にも多く使われています。
また、生薬の一つとしても知られており、滋養、栄養に富むゆり根は古くから薬用としても珍重されてきた歴史があるほど栄養満点な食材です。
ゆり根の紀元は東アジアと言われています。日本でゆり根が食用として広まったのは江戸時代から始まり、日本の伝統野菜として今に伝わっています。
ゆり根の多くはアクが強すぎるため、現在『オニユリ』『コオニユリ』『ヤマユリ』『タツタユリ』の4種類が食用として栽培されています。普段私たちが食べているゆり根のほとんどは、白銀とよばれるコオニユリの一種で、鱗片の幅が広く、鱗茎の形が扁平球となっています。
北海道は生産量NO.1。ゆり根ができるまで
ゆり根の旬は、秋から冬です。北海道の生産量が全国の大半を占め、主に真狩村、ニセコ町、留寿都村などで生産されています。収穫されたものは関西を中心に全国へ移出されており、高級料理や正月料理として欠かせない食材となっています。
ゆり根は6年もの年月をかけて育てられます。北海道における主な栽培時期は4〜9月です。春に種球の鱗片を植えて、次の年の春に掘り起こし、畑の別の場所に植え替えます。その年の秋に掘り起こして冬期間保存し、翌春まで寝かせたあとはまた別の場所に植え替えます。これを繰り返し、5年目の秋にようやく掘上げ収穫し、おがくずなどでパッキングして出荷となります。このように丹精込めて育てられたゆり根が、みなさんの食卓に並ぶんですね。
ゆり根の栄養素について詳しく知ろう
ゆり根の栄養価は100gあたり125kcal、タンパク質3.8g、脂質0.1g、炭水化物28.3g、食物繊維は5.4gです。この他にもゆり根に含まれる栄養素は多くあり、それぞれのさまざまな働きを詳しくお伝えします。
①カリウム
ゆり根100g中にカリウムは740mgと、野菜の中でトップクラスの含有量です。カリウムには体内の余分な水分を排出し、血圧を下げる働きをします。塩分や水分の摂りすぎでむくみが気になる人には、意識して多く摂取したいですね。カリウムは調理で煮汁に溶け出しやすいため、汁ごと食べられる料理がおすすめです。塩分が高くなりやすい煮物などは、カリウムの多いゆり根をたっぷり入れてバランスを取りましょう。
②食物繊維
ゆり根はグルコマンナンと呼ばれる水溶性食物繊維が豊富です。グルコマンナンは腸内では消化されず水分を吸収して膨張するため、便のかさを増やし、腸内の善玉菌のエサとなって腸内環境を整え、便秘の改善に役立ちます。また血糖値の上昇を抑制する効果や、血中コレステロール値を下げる効果も期待されています。
③鉄
鉄は赤血球を作るのに必要なミネラルです。不足すると貧血を起こして、めまいや立ちくらみなど疲れやすくなります。
鉄には2種類あり、赤身の肉、貝類、小魚などに多く含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品や乳製品、卵に多く含まれる「非ヘム鉄」に分けられます。その違いは吸収力で、ヘム鉄に比べて非ヘム鉄は吸収力が低いですが、ビタミンCと一緒に摂取すると高くなります。ゆり根自体にも鉄とビタミンCを含み、かつ加熱によるビタミンCの損失が少ない特徴を持つため、非ヘム鉄の吸収が促進されて効率が良いのです。
④その他のミネラル
ゆり根はカリウム、鉄以外にも100g中にカルシウムを10mg、亜鉛を0.7mg、銅を0.16mgと多くのミネラルを含みます。
カルシウムやリンは骨や歯の材料となり強く丈夫な体を、亜鉛は味覚や細胞を作るために必要なミネラルです。銅は鉄の働きをサポートして血液を作ったり、血管や骨をしなやかにするために必要なミネラルです。
ゆり根に毒があるって本当?
ゆり根に毒があると聞いたことがあり、心配されている方もいるのではないでしょうか。
結論から言いますと、ゆり根には人間にとって毒と言われる成分は含まれていません。 ユリ科の植物の球根の中には、スズランやヒガンバナなどアルカロイド系の毒を含むものもありますが、全てのユリ科植物に毒があるわけではありません。実は玉ねぎやアスパラガスもユリ科の食物ですが、毒はありませんよね。ゆり根も食用として栽培されているものなので心配はありません。観賞用や園芸用のユリの球根を食べたり、自生しているものを食べない限り問題はないと言えるでしょう。
ゆり根の保存のコツ
日光にあたると変色するなど、とってもデリケートなゆり根。生産者も栽培、出荷時には大変気を使って扱っています。保存する場合は風通しのよい冷暗所に置きましょう。購入時におがくず入りの場合はそのままで、ポリ袋入りのものはポリ袋から出して新聞紙など柔らかい紙に包み、冷蔵庫の野菜室で保存します。冷蔵の場合は日持ち性が良くないため、3日ほどで使い切るようにしましょう。冷凍する場合は鱗片を1枚ずつばらして、さっと下茹でしたものを保存袋に入れて冷凍すると1か月程度持ちます。ゆり根は柔らかいので、茹でたものを熱いうちに裏ごしして冷ましたものを冷凍保存すると、ポテサラ風やきんとんも簡単に作れますよ。
おすすめの食べ方
ゆり根はお正月料理でしか食べる機会がないという方も多いのではないでしょうか?実は乳製品に合ったり、揚げ物や炒め物など油と相性が良いなど様々な料理に活用できます。
定番の茶碗蒸しに入れたり、玉ねぎ・牛乳・コンソメをミキサーで合わせて簡単ポタージュにすると、ゆり根本来の甘さを楽しめます。
ゆり根はホクホクしているので、下茹でしたあとポテサラ風にしてみたり、ベーコンと塩こしょうでサッと炒めて食べるのもおすすめです。
筆者が好きな食べ方は、ゆり根の天ぷらです。ほぐしてよく洗い、水を切ったゆり根に衣をつけて、油で揚げるとシンプルですが最高に甘くて美味しいです。めんつゆ・塩・カレー塩などで味変しながらたくさん食べています。また、とっても簡単な食べ方だとバターをゆり根にのせて、ラップで包んで5〜6分加熱するとまるでじゃがバターみたいなゆり根を楽しめます。
まとめ
ゆり根の産地や栄養価から、おすすめの料理法までお伝えしました。 ゆり根は普段の食事で食べる機会がなく、ピンとこない方も多い食材ではありますが、やさしい甘さとホクホクした食感で、汁物や炒め物、サラダ、揚げ物など様々な料理に利用できることが分かりましたね。そして美味しいだけでなく栄養価も抜群!そんな万能の食材・ゆり根をこの機会にぜひ食べてみてはいかがでしょうか。