秋の味覚の代名詞でもある「秋刀魚」。旬の時期には刺身や塩焼きに炊き込みご飯、干物や蒲焼きの缶詰はいつでも食べることのできる日本人の食卓には欠かせない魚です。そんな秋刀魚に含まれる良質な脂質やビタミン類などの栄養素とその働きについて、管理栄養士の筆者が詳しく解説。わた(内臓)や皮に含まれる栄養素やイワシなどその他魚との比較、大根おろしとの相性についてもご紹介します。
目次
【秋刀魚】とは?
秋の味覚の代名詞といえば「サンマ」。サンマは「秋刀魚」と書くように、秋に旬を迎え、刀のように細身で銀色に輝く姿が特徴的な魚です。「秋刀魚(サンマ)が出ると按摩(あんま)が引っ込む」ということわざがあるくらい、栄養豊富な魚として愛されてきました。
サンマ漁業は古くから行われてきたようで、江戸時代には既に庶民の味として親しまれていたと言われています。北海道においては明治時代の末期頃から漁獲が始まり、その後1947年頃から光に集まる習性を利用した「サンマ棒受網漁法」が普及し、漁獲量が増大しました。
生息地域は日本からアメリカ西岸までの北太平洋の広い地域で、季節によって大きく回遊します。肉食性で動物プランクトン、魚卵、稚魚などを餌にしますが、サンマもまたサメ類やクロマグロなどの大型魚類やクジラ類、海鳥などの餌としてよく食べられており、北太平洋の大型生物にとっても欠かせない食料となっています。
【秋刀魚】の栄養成分とその効能について
サンマは100gあたり318kcal、タンパク質18.1、脂質25.6g、炭水化物は0.1g、食物繊維は0gです。ここではサンマに含まれる様々な栄養素について詳しく解説します。
◆タンパク質
タンパク質は筋肉や内臓、骨、髪など身体のあらゆる細胞を作るだけでなく、筋肉や内臓、骨、皮膚髪、血液などの材料となります。サンマは体内で合成できない必須アミノ酸をバランスよく含んでいるので、エネルギーの代謝を高めるのに効果的です。
◆DHA・EPA
サンマの脂には、DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(イコサペンタエン酸)が豊富に含まれています。DHA・EPAは魚油中に多く含まれる不飽和脂肪酸です。 コレステロール値を下げたり、血栓や動脈硬化を予防する効果が期待できます。DHA・EPAは魚油に多く含まれるため、特に脂がのった旬のものは栄養価も美味しさも増すためおすすめです。
◆ビタミン類
サンマには他にもビタミンA、ビタミンD、ビタミンB群が多く含まれています。ビタミンAは目や肌を健康に保つ働きがあります。ビタミンDはカルシウムの吸収を高め、骨を丈夫にする栄養素です。このビタミンAとビタミンDは脂溶性ビタミンなので、脂質と合わせると吸収率がアップします。サンマにはDHAやEPAという良質な脂質が含まれているため、サンマを食べるだけでこれらの栄養素を効率的に摂取することができます。
また、魚には珍しくビタミン B群を多く含む食材です。特にビタミン B12は動物性食品に含まれます。野菜中心の食生活の人は意識して補うことが大切です。
部位によって栄養の特徴はある?
サンマの栄養素が豊富なのは身だけでなく、皮や内臓、血合にも多く含まれています。下記にて詳しく解説します。
①血合い
サンマをさばいた時に見える赤黒い血合い。血合いが赤いのは、ミオグロビンというタンパク質が多く含まれているためです。この血合い部分にはミオグロビンの他にも鉄が豊富に含まれており、貧血対策に役立ちます。
②内臓(はらわた)
サンマは胃をもたない無胃魚であり、内臓の苦味が少ないのが特徴です。新鮮なサンマであれば、はらわたも加熱調理で問題なく食べることができます。はらわたにはナイアシンやカルシウムが多く含まれているため、取らずに食べたいものです。
③皮
サンマのビタミンB2や脂質(DHAやEPA)は、身より皮に多く含まれます。焼きサンマを召し上がる際は皮も残さず頂くようにしましょう。サンマは焼くと脂が染み出ます。栄養価的にはもったいないので脂も丸ごと食べたいところではありますね。
効果的に栄養を摂取するために
サンマの栄養を効果的に摂取するためには、βカロテンが多い食材を合わせるのがおすすめです。βカロテンは、体内で抗酸化力の強いビタミンAに変わります。ビタミンAは脂溶性であるため、サンマの脂で吸収率がアップし、ビタミンA本来の免疫力をより高めてくれます。βカロテンが多く含まれる食材には、かぼちゃや人参、ズッキーニなどがあります。かぼちゃで炊き込みご飯や、人参を使った南蛮漬け、ズッキーニと合わせてオーブン焼きなどが栄養素を効果的に摂取できるすすめ料理です。
大根おろしとの相性
サンマには大根おろしを添えて食べるのが定番ですが、実は栄養学的にもぴったりな組み合わせです。サンマは血液中の余分なコレステロールを減らす作用を持つ不飽和脂肪酸が豊富な食品。大根おろしには食物繊維が豊富なので、サンマと組み合わせる事でコレステロールの排出をより促します。 また、大根にはジアスターゼやカタラーゼ、オキシターゼなどの消化酵素が含まれます。これらの消化酵素は、胃もたれを防止したり、焼き魚の焦げに含まれる発がん性物質を解毒する働きがあるためガン予防にも効果的です。このことからもサンマと大根おろしの相性は最強と言えるでしょう。
蒲焼の「缶詰」は栄養的にもおすすめ
スーパーなどで手軽に手に入れることができるサンマの缶詰。美味しい上に下処理の必要がなく、そのまま使えて時短にもなる優れものですよね。
缶詰はカルシウムや鉄分を効率よく摂取したい場合にもおすすめです。生魚や焼き魚の場合骨は捨てられますが、缶詰なら骨ごと食べることができ、サンマの栄養を余す事なく摂取することができます。ただし「蒲焼」は塩分が高く、タレには糖質が多く含まれるため、高血圧や糖質制限をされている方は食べる量に注意しましょう。
その他の魚との栄養比較
サンマが含んでいる栄養素について説明しました。他の魚とも比較してみましょう。含まれる栄養素は似通ったものもあれば突出したものもあります。
◆イワシ
イワシは100gあたり169kcal、タンパク質は19.2g、脂質は9.2g。サンマよりもずっと脂質の含有量が低く、半分以下です。イワシはビタミンDを多く含んでおり(100g中32.0μg)、特に丸干しのものは生よりビタミンDの含有量が増えるため、効率的に栄養素を摂取できます。
◆アジ
アジは100gあたり126kcal、タンパク質19.7g、脂質4.5gと低脂質・高タンパクな魚です。サンマ、イワシ、サバ、鮭と比べて特にタウリンが多く、100g中206mgと豊富に含みます。タウリンはアミノ酸の一種で、高血圧予防や肝機能の向上に役立つ働きがあります。
◆サバ
サバは100gあたり326kcal、脂質26.8gとサンマより若干高め。サバの栄養価はサンマと近しく、不飽和脂肪酸(DHA・EPA)が多く、その他にもビタミンB群を多く含んでおり、ナイアシンの含有量が高いです。
◆鮭
鮭は100gあたり133kcal、タンパク質22.3g、脂質4.1gとアジ同様に低脂質・高タンパクな魚です。鮭の身に含まれる赤い色素のアスタキサンチンは、強力な抗酸化作用があり、細胞の劣化を防ぐ役割があります。
秋刀魚を食べる際の注意点は?
妊婦の方が魚を食べる際には胎児の発育に影響を与える可能性があるため、水銀の量に注意する必要があります。サンマのような青魚に含まれる水銀量は低く、通常通りの量を食べても問題ありません。むしろサンマには鉄分や良質な脂質(DHAやEPA)が含まれるためおすすめですが、妊娠中はサンマにこだわらず様々なものを食べるようにしましょう。
美味しい秋刀魚の選び方
全体的に光沢があり、身が締まっていてハリがあり、口先が黄色く黒目が澄んでいるものを選びましょう。また、太っていて肉厚のものは、脂がのって美味しいものが多いのでおすすめです。保存する際は頭と内臓を取り、水気を拭き取って一尾ずつラップに包むと冷凍庫で約1か月ほど保存が可能です。
北海道の秋刀魚を食べよう!
サンマは北海道沖から三陸沖にかけての水揚げが国内全漁獲量の約80%を占めます。道内の主要産地は道東にある根室市、厚岸町、釧路市です。道東の各漁協ではサンマをブランド化する動きが出てきています。有名なのは釧路市の「青刀さんま」、厚岸町の「大黒さんま」など、獲れたてのサンマを品質管理しながら素早く流通させることで、他の産地と差別化を図りブランドを確立させています。
また、鮮度がいいからこそ楽しめるのがお刺身。根室、歯舞漁協の「一本立ち歯舞さんま」は、海水を紫外線殺菌しシャーベット状の氷で高鮮度、高品質を維持し生でも食べれる商品となっており全国区で展開しています。
サンマなどの赤身魚は時間の経過とともに急速に鮮度が低下するため、漁獲されてからいかに早く消費者の口に入るかがポイント。北海道の鮮度の高いサンマはとても美味しので、ぜひ味わってみてください。
まとめ
サンマ全体の栄養素から部位ごとの特徴的な栄養素、おすすめの食べ方などをご紹介しました。季節の変わり目には、知らず知らずのうちに疲労が重なり免疫力が低下しがちです。そんな時こそ栄養素がたっぷりなサンマを食べて、元気に秋を過ごしましょう。