寿司ネタや海鮮丼などでお馴染みの高級食材「いくら」。頻繁に大量に食べるわけではないけれど、どんな栄養素が含まれているのか気になりますよね。また、塩分やプリン体、コレステロールを気にする方には少し敬遠されがちな食材ですが、管理栄養士の筆者が丁寧に解説します。筋子やたらこ、数の子といったほかの魚卵とのカロリー比較や、いくらにまつわる豆知識なども紹介します。
目次
【いくら】について詳しく知ろう
この食材に関しては毎日食べている人はほぼいないかと思いますが、「いくらが大好き!!」という人は多いはず。少量でも料理や食卓に華やかさを演出してくれ、綺麗な赤色とプチプチした食感でお子様にも好まれる食材です。まずはいくらがどんな食材なのかを知りましょう。
【いくら】とは
いくらとは秋鮭(シロサケ)の卵を指します。鮭の卵はお腹の中にある時には「卵巣膜」という膜につつまれており、その状態を「筋子」と呼びます。筋子を金網などでバラバラにした状態のものを「いくら」と呼び、出汁醤油などの調味液に漬けることで「いくらの醤油漬け」といった味が付いた食品が出来上がります。
よく似たものに「鱒子(ますこ)」があります。鮭と同じ仲間である鱒の卵ですが、鱒子は鮭の卵よりも小さく、バラバラの状態になっていることもありますが、主に筋子のまま味付けされていることが多いです。
厳密にいうと日本語辞書では鱒(マス)の卵もいくらと呼ぶことになっているため、マスの卵をほぐしたものもいくらと呼ぶことは正しいのでますが、スーパーの売り場でも水産現場においても鮭とマスの卵は区別されています。 サケは川で孵化し、稚魚のうちに河川から海に出て産卵期になると生まれ育った川に戻り交尾を行う「里帰り出産」の習性を持つ珍しい魚です。鮭の旬は10~11月。海で2~8年暮らして成魚になった頃、産卵期の鮭が川に戻ります。その習性を使って川や海で網を使い漁獲し、雌の腹にある卵を取り出します。
鮭の旬といくらの旬
旬の時期=一年で最も鮭が美味しい時期というイメージがありますが、秋の産卵を迎えたメス鮭は肉質や味はイマイチ。お腹に抱えた卵「いくら」に価値があり、鮭の身自体はいくらに栄養を与えることでボロボロになってしまいます。産卵後のメス鮭は古くから「ホッチャレ」と呼ばれ、北海道弁で「すてるもの」を意味します。秋に食用として出回る鮭の身は雄の方が美味しく価値があります。
ちなみに、いくらは漁期の最初から中間が美味しいとされています。漁期の後半になるといくらの卵の膜が硬くなってしまい、食感が悪くなるためです。
いくらの語源
いくらの語源はロシア語です。ロシア語で魚の卵全般を指す言葉「イクラ」が日本に伝わり、そのまま鮭の卵を「いくら」と呼ぶようになったといわれています。ロシア人が鮭の卵をほぐした状態を「イクラ」と呼んだことからその呼び方が全国に広まりました。
ちなみに、ロシアではキャビアも同じく「イクラ」と呼びます。
赤色の理由
いくらの綺麗な赤色は、親鮭が食べるエサであるプランクトンの色素が由来となっています。プランクトンの色素は「アスタキサンチン」と言い、鮭はプランクトンを大量に食べることでアスタキサンチンを身に蓄積する性質があります。そのアスタキサンチンが卵にまで反映され、綺麗な赤色をしたいくらになるのです。
アスタキサンチンはただ単純に色素である以外にも素晴らしい効能を持っていますが、それは後述します。
いくらと筋子の違い
「いくら」と「筋子」の違いは先に述べたように「卵巣膜があるかないか」です。
しかし、一般的には鮭の卵をバラバラにした状態を「いくら」と呼び、「筋子」は鱒子を卵巣膜ごと味付けしたものを指すことが多いです。 「いくら」はほとんどの場合が鮭の卵ですが、コンビニのおにぎりなどに使われているのは「鱒(マス)」の卵であることも多々あります。粒の大きさ大きければ鮭の卵、小さければ鱒の卵、と見分けると良いです。鱒のいくらの方が安価ですが、味はというと若干の違いはありますがどちらも美味なのでご安心を!ただし、プチっとした食感や粒の大きさ、生臭さの少なさでいくらの方がファンが多いです。
【いくら】に含まれるカロリーや栄養素、その働きについて
いくら100g当たりの栄養価はエネルギー272kcal、タンパク質32.6g、脂質15.6g、炭水化物0.9g、食物繊維は0gです。食塩相当量は2.3g。 ここではいくらに含まれる様々な栄養素について詳しく解説します。意外かもしれませんがカルシウムやその吸収率を高めるビタミンDも豊富に含んでいますよ。
①タンパク質
いくらはいずれ鮭の稚魚へと変化する卵です。そのため、体を作るために必要不可欠な栄養素がギュギュッと詰まっています。タンパク質は筋肉や体の組織、爪や髪の毛を構成する栄養素です。また、1g4kcalの体を動かすエネルギーにもなります。タンパク質が不足するとむくみや筋肉量の低下などが起こります。
②不飽和脂肪酸(DHA・EPA)
いくらは脂質が多い魚卵ですが、その脂質には不飽和脂肪酸であるDHA・EPAが豊富に含まれています。 DHA・EPAは共に生活習慣病の予防や改善に役立つ脂質です。特にDHAは記憶力の維持増進、EPAは血管疾患の予防に役立つ脂肪酸です。適度な摂取は体に良いですよ。
③カルシウム
いくら100g中に94㎎のカルシウムを含みます。たらこには24㎎、数の子には8㎎しか含まれていないことを考えると、とても多くのカルシウムが含まれています。
カルシウムは骨や歯の健康を保つ以外にも、筋肉の収縮にも必要な栄養素です。
牛乳に匹敵する多さですが、いくら100gも食べることはなかなか現実的ではないため、「イクラでもカルシウムが摂取できている」と考える程度にしておきましょう。
④ビタミンD
いくらにはビタミンDが多く含まれています。100g中に44μも含んでおり、これは成人男性の摂取目安量の5倍の量です。いくらを20g食べるだけで1日に必要なビタミンDがカバーできるということです。
ビタミンDはカルシウムの骨への沈着をサポートすることから骨を丈夫にする働きがあります。いくらにはカルシウムもしっかり含まれているため、骨や歯の健康を保つための食材としてはぴったりですね。
⑤ビタミンE
いくらにはビタミンEも豊富に含まれています。ビタミンEは抗酸化作用が強い脂溶性ビタミンです。100g中に9.1㎎含まれていますが、これは1日に必要なビタミンEを充足するほど。アンチエイジングや血管のしなやかさを保つ作用もあるため、いくらは「いつまでも若々しい体を保ちたい!」という人におすすめの食材です。
⑥アスタキサンチン
いくらの親である鮭の身はオレンジ色をしていますが白身魚に分類されます。鮭の身の色はエサのプランクトンの色素が由来となっています。プランクトンの色素は「アスタキサンチン」と言い、鮭はプランクトンを大量に食べることでアスタキサンチンを身に蓄積する性質があります。いくらの鮮やかな赤もアスタキサンチンによるものです。
アスタキサンチンには強力な抗酸化作用があり、細胞の劣化を防ぐ役割があります。抗酸化物質と言えば、ビタミンEやビタミンCも抗酸化作用があるのですが、アスタキサンチンは他の抗酸化物質にはない、「脳にまで届く」抗酸化作用を持ちます。そのため、脳の老化防止や脳血栓・脳梗塞を予防できる抗酸化物質です。アスタキサンチンの強い抗酸化作用はビタミンEの何千倍ともいわれています。 また、アスタキサンチンはビタミンCと一緒に摂取することで、再利用できるという持続型の栄養素です。
気になる塩分、プリン体やコレステロール。美味しく健康的に食べるために。
いくらは100g中に塩分を2.3g含みます。日本人の塩分摂取量は目安量よりも多いと言われており、1食当たり3ℊ前後を目指して減塩するような食生活が提唱されています。いくら以外にも味噌汁や漬物、他のおかずを食べる事を考えると、食べ過ぎないほうが無難でしょう。いくらの上からまた醤油をかける人もいるかもしれませんが、それは塩分の摂り過ぎにつながりますよ。
いくらのプリン体の量は100g中3.7㎎です。プリン体はありとあらゆる食品に含まれていますが、他の食品に比べてもプリン体の量が少ないと言えます。痛風や尿酸値を気にしている人も避けなくて大丈夫です。
プリン体が多い食品として魚卵はイメージが強いかもしれませんが、いくらよりも白子の方が格段に多く(100g中に約300㎎)、しらこは尿酸値を気にする人にはタブーな食材です。たらこはというと、100g中に159㎎といくらよりも多いですが、他の食品に比べてもそれほど多くないと言えます。プリン体は1日の目安量は400㎎です。
コレステロール量はというと、100g中に480㎎。コレステロールの1日の摂取目安量は300㎎以下が好ましいため、食べ過ぎは禁物です。
妊婦の場合、生のいくらにはアニサキスや食中毒菌が付着している場合があるため、避けた方がリスク回避となります。
いくらと他の魚卵との比較
同じ魚卵であっても、親が違ったりすると含まれる栄養素がガラッと変わります。
◆筋子
「筋子」は100gあたり282kcalといくらよりも若干高め。一般的にスーパーに並んでいる筋子の食塩相当量は4.8gとしょっぱめなことが多いです。
筋子のプリン体量は100g中16㎎といくらよりも若干多いですが、摂取量を気にするほどではありません。ただし、コレステロール量は100g中510㎎といくらよりも高いため気を付けましょう。製造方法にもよりますが、いくらよりも筋子の方が塩分が高く、少量でも満足できるため1度に食べる量を自分でコントロールすることができます。 他の栄養素はいくらと似たようなバランスです。
◆たらこ
スケトウダラの卵巣を塩漬けにした「たらこ」は、100gあたり140kcal、タンパク質は24g、脂質は4.7g。いくらよりもずっと脂質の含有量が低く、1/3以下です。いくらが含むビタミンB1が0.42㎎であることに対し、たらこは0.71㎎、ナイアシン量は0.1㎎なのに対してたらこは49.5㎎も含みます。
ただし、コレステロール量は100g中350㎎、塩分は4.6gであるため食べ過ぎには注意が必要です。
◆数の子
ニシンの卵である「数の子」は100gあたり89kcalとヘルシーな魚卵です。タンパク質は15g、脂質は3gと控えめなのですが、他の栄養素も控えめです。特にこれと言って多く含まれる栄養素はありません。 数の子のプリン体量は100g中22㎎と少ないですが、コレステロール量は100g中230㎎含んでいます。数の子は一度に食べる量がそこそこ多いため、コレステロールを気にする人は食べる量を気を付けましょう。
◆うに
「うに」は貝の卵巣です。魚卵ではありませんが、「ウニイクラ丼」などでいくらと一緒に並ぶことも多いので紹介します。 うには100gあたり120kcal、タンパク質は16g、脂質は4.8g。濃厚な味わいからカロリーや脂質が多いと思われがちですが、低カロリー&低脂質と言えます。うにはビタミンB群を多く含んでおり、葉酸の含有量が高いです(100g中360μg)。葉酸は妊娠初期に多く必要な栄養素ですが、うには食中毒の危険性があるため妊婦が生で食べる事はおすすめしません。うにのプリン体量は100g中137㎎、コレステロール量は100g中290㎎です。
北海道のいくらは美味しい!
北海道のスーパーには時期になると新鮮な生の筋子が並びます。道民はその筋子を手作業でバラし、甘じょっぱい醤油や出汁醤油に漬け込み各家庭の味を楽しみます。
しかし、過去には鮭が乱獲されることで大幅に漁獲量が減ってしまった時期がありました。最近でも年によって鮭の漁獲量が減ることにより筋子の量も減り、庶民にはなかなか手が出にくい値段になってきています。
希少でおいしく美しいいくらは、まさに「海の赤いダイヤ」!一粒一粒を大切に食べてあげたいですね。
まとめ
高級食材でもある「いくら」について詳しく解説しました。塩分やコレステロールが若干高めではありますが、適度な量であれば私たちの体にプラスに働く栄養素をたくさん含んでいるということがお分かり頂けたかと思います。
北海道のいくらは秋が旬!道民は自家製いくらをご飯の上にたっぷり乗せることで秋を感じます。生の筋子を手に入れた際は、是非、手作りの「いくら醤油漬け」を仕込んでみてはいかがでしょうか。