全国各地で栽培できることから野菜類の中で最も作付面積の多い「大根」。たくあん漬や切り干し、刺身のツマにおでんの具材と日本人にとっては馴染みのある食材であり、歴史的にも古くから食べられてきた根菜です。今回は管理栄養士の筆者が大根の栄養素とその働きについて詳しく解説。根と葉の栄養的違いや辛味成分のこと、おすすめの食べ方についてもご紹介します。
目次
【大根】について詳しく知ろう
大根はどんな野菜?
大根はアブラナ科の1〜2年草で、中央アジアから中国が原産地の一つに数えられています。日本でも古くから食べられてきており、その渡来時期は定かではないものの8世紀の「古事記」や「日本書紀」に記載があることから、それ以前に中国より伝えられたとされています。
現在の日本で主力の栽培種は他国の大根と比較すると非常に大型で、水分が多い「青首大根」が利用の主体を占めています。青首大根の他にも、全体が白いのが特徴的な「白首大根」、辛味成分が多い「辛味大根」が挙げられます。
旬の時期
大根の旬は6〜10月頃と夏から秋冬にかけてです。北海道の出荷量は全国第2位で約12%のシェアがあり、札幌市場では7〜10月は道内産がほぼ100%になるほど。冬春期間は神奈川県、千葉県、茨城県などから移入しており、1年を通してスーパーで手に入れることができる野菜です。
「根」は淡色野菜、「葉」は緑黄色野菜
大根の「根」には水分が多く、複数の消化酵素が多く含まれています。また、辛味成分のイソチオシアネートにも消化を促進する働きがあるほか、発がん抑制作用や殺菌作用なども期待できます。一方、「葉」は緑黄色野菜であり、無機質やビタミン類を豊富に含んでいます。
別名は「すずしろ」
大根の別名は「すずしろ」と呼ばれ、清々しく大根の根が白い「涼白」から由来すると一説で言われております。すずしろは春の七草の一種として有名ですね。正月明けの身体を休め、無病息災を願う「七草粥」に使われる野菜の一つです。
【大根】の栄養成分とその効能
大根(皮付き)100gあたり17kcal、タンパク質0.5g、脂質0.1g、炭水化物4.1、食物繊維1.4g。大根に含まれる栄養成分とその効果効能についてお伝えします。
◆ビタミンC
大根は100g中に12mgのビタミンCを含みます。ビタミンCはタンパク質から皮膚を丈夫にするコラーゲンを合成し、美肌作りに必要不可欠な栄養素です。その他にも免疫力を高めたり、鉄の吸収を助ける効果も期待できます。ビタミンCは水溶性で熱に弱く、2〜3時間で排泄されるため、毎食補うことが大切。大根を生で味わう食べ方の代表格である「大根おろし」は、おろしてから時間が経つとビタミン類が損なわれるため、食べる直前におろすことがおすすめです。また、根の部分より皮に近い部分により多くのビタミンCが含まれるため、おろすときはきれいに洗って皮ごとすりおろすと良いでしょう。
◆カリウム
大根に含まれるカリウムは100gあたり230mg。カリウムは、ナトリウムと協力して細胞の浸透圧を維持したり、余分なナトリウムを体外に排出し、血圧を正常に保つ働きがあります。他にも腎臓からの老廃物の排泄を助けたり、筋肉の収縮をスムーズにする働きも担います。カリウムは水溶性で煮ると約30%が失われてしまうため、意識的に摂取する際は、生のままで食べることをおすすめします。
◆カルシウム
大根100gあたりのカルシウムは24mgです。葉の部分には根の10倍以上のカルシウムが含まれています。カルシウムは、骨や歯を丈夫に保つほか、体の筋肉の収縮に関わったり精神の安定にも必要なミネラルです。
◆食物繊維
大根(皮つき)に含まれる食物繊維は100gあたり1.4g。皮なしだと100gあたり1.3gで、皮つきの方がより多く食物繊維が含まれます。
食物繊維は腸内環境をよくして、便秘予防や大腸ガンの予防効果もあります。また、糖質の吸収を緩やかにしたり、コレステロール値の上昇を抑えるなど生活習慣病予防にも役立ちます。
「葉」の部分の栄養
「葉」の部分は緑黄色野菜であり、βカロテン、ビタミンB2・E、カルシウム、食物繊維などが豊富です。油で炒めるとβカロテンや食物繊維、ビタミンEの吸収率がアップします。葉付きの大根を購入した際は、葉も捨てずに調理することで沢山の栄養を摂ることができますよ。
「皮」の栄養
大根の栄養は「根」の部分よりも「皮」の部分に多く含まれています。大根の栄養を逃さず摂取するには、皮ごと食べることがおすすめです。大根おろしにする際は皮ごとすりおろしたり、調理の際にむいて余った皮をきんぴらや漬け物にすることで、大根の栄養を余すことなく接種できます。
大根の【機能性成分】について
大根の「根」の部分には、アミラーゼ(旧名:ジアスターゼ)やプロテアーゼ、リパーゼ、オキシターゼなどの消化酵素が含まれ、胃腸の働きを整えます。
◆アミラーゼ
アミラーゼはでんぷんの分解を助ける酵素です。食べ物の消化を助け、胸焼けや胃もたれを防ぎます。大根おろしを餅にかけて食べる「からみ餅」は、餅の消化を大根が助ける理にかなった組み合わせといえます。
◆プロテアーゼ
プロテアーゼはタンパク質の分解を助ける酵素で、さまざまな料理の下ごしらえに役立ちます。調理前の肉や魚など、タンパク質が多く含まれる食材を大根おろしに漬け込むことで、肉質が柔らかく変化し、食べやすくなりますよ。
◆リパーゼ
リパーゼは脂肪の分解を助ける酵素です。ステーキや天ぷら、唐揚げなど、油分の多いものを食べる時に大根を合わせて食べることで、胸焼けや胃もたれを予防します。
◆オキシターゼ
オキシターゼは解毒作用がある優れた酵素です。焼き魚などの焦げに含まれる発がん性物質を解毒する働きがあるため、サンマやイワシ、アジなど焼き魚に添えて食べるとがん予防に効果的です。
大根の【辛味成分】について
大根おろしを食べた時に感じる“辛味”は、「イソチオシアネート」と呼ばれる成分によるものです。
◆イソチオシアネート
大根に含まれる辛味成分の「イソチオシアネート」は、すりおろしたり切ったりした時に大根の細胞が破壊され、その際「ミロシナーゼ」という酵素と反応することで生成されます。イソチオシアネートには、血栓を防ぐ作用や、解毒・殺菌作用なども期待できます。
辛味は大根の食べる部分によって違う
細長くて重量があるためにカットして販売されていることの多い大根。食べる部分によって辛味の強さが異なることはよく知られていますが、これはイソチオシアネートの含有量の違いによるものです。特にイソチオシアネートの含有量が多く、辛味が強いのは根の先端部分。葉に近い根元部分になると辛味が少なく、甘みが強くなります。
また、イソチオシアネートは揮発性のため、大根をすりおろしてから時間が経つと辛味が減ってきます。辛味を楽しみたい、イソチオシアネートの効果をしっかり得たい方はすりおろした後すぐ食べることがおすすめです。反対に、辛味が苦手な方は、すりおろした後時間をおいて食べると良いでしょう。
辛味は品種や栽培時期によっても違いがある
辛味は栽培時期によっても異なります。7〜8月に栽培される夏大根はイソチオシアネートの含有量が多く辛味が強いのが特徴です。一方11〜3月に栽培される秋冬大根はイソチオシアネートの含有量が少ないため、甘みを感じられます。ただし皮に近い部分は辛味が強いため、辛味が気になる方は皮を厚めにむくと大根の甘みをより感じられますよ。
また、品種によっても辛さが変わるため、辛味を求める方は白首大根や辛味大根がおすすめです。
「切り干し大根」にすると栄養アップ!
大根を細切りにして乾燥させたものが「切り干し大根」。広く親しまれている保存食で、干すことによって水分が減少し、栄養素が凝縮されています。特に食物繊維のリグニンが多く含まれ、生の大根100gあたり1.4gなのに対し切り干し大根は100gあたり21.3gです。また、カルシウムも増えており100gあたり500mgも含みます。生の大根に比べるとカルシウムは約20倍といえます。切り干しは軽量で保存しやすく、賞味期限が長くなるというメリットもありますね。
大根の栄養を効率的に摂取する調理法
スーパーに行けばいつでも購入できて、主役・脇役を問わず様々な料理で活躍してくれる大根。その栄養を最大限に摂取するには生食が一番です。熱に弱いアミラーゼなど消化酵素を摂るためには、生をすりおろしたりサラダにして食べましょう。辛くて食べにくい時は、酵素の働きは失われてしまいますが、温めると甘味が増して美味しく食べられますよ。 葉の部分は、前述したように油で炒めるなど油と合わせることで、βカロテンや食物繊維、ビタミンEなどの吸収率がアップします。
大根の部分別おすすめの食べ方
大根は食べる部位によっておすすめの食べ方も異なります。部位に合わせた食べ方を知り、レパートリーを広げてみてはいかがでしょうか。
①葉に近い部分(上部)
葉に近い部分は甘みが強く、瑞々しくて硬めです。千切りサラダや野菜スティック、おろしにするなど生で食べるといいでしょう。栄養素をしっかりと摂取することができます。
②真ん中部分(中央部)
根の中央部分は甘みがあり最も水分が多いため、煮物にすると美味しくいただけること間違いなしです。他にも大根ステーキやおでんなど、メインとなる料理がおすすめです。
③根に近い先端部分(下部)
先端部分は辛味が強いため、炒め物や薬味として使うと良いでしょう。また、水分量が少なく調味料がなじみやすいため、漬物を作る際にも相性抜群です。
④葉っぱ部分
葉の部分は買ったその日のうちに調理しましょう。使わない分は刻んで冷凍保存も可能です。汁物に入れたり、ふりかけを作ったり、和え物にしたりなど、普段捨てがちかもしれませんが美味しくて栄養豊富なためぜひ利用してみてくださいね。油で炒めるとβカロテンや食物繊維、ビタミンEの吸収率がアップしますよ。
美味しい大根の選び方
手に取った時に重量があって固く、全体的に光沢があり、皮に張りがあるものを選びましょう。また、葉の色が褪せておらず切り口が新鮮でみずみずしいもの、花茎(花をつける茎で葉はない)が出ていないものがおすすめです。また、切り口に「す」が入っていると根にも入っていることがほとんどであるため、確認するとよいでしょう。
おすすめの保存方法
保存する場合は、必ず葉を切り取りましょう。根の部分はラップで包んで冷蔵庫の野菜室に保存するか、新聞紙に包んで風の当たらない冷暗所に置きます。家庭菜園などをしてる方は冬期間中、むろや土中での貯蔵も可能です。
葉の部分は買ったその日のうちに刻んで冷凍保存しておくと、お味噌汁に放ったり、ふりかけなどを作る時に便利ですよ。
まとめ
大根の栄養的な特徴、辛味などの機能性成分や部位ごとのおすすめの食べ方などについてお伝えしました。大根は煮物やサラダ、炒め物、漬物など様々な料理に役立ち、色々な食べ方ができる嬉しい食材です。ぜひ日頃の食卓に大根を積極的に取り入れてくださいね。