ヒラメと並んで「海の忍者」とも呼ばれる「カレイ(鰈)」。淡白な味わいの白身魚で刺身や塩焼き、煮付けや唐揚げなど様々な調理ができ、日本人の食卓には欠かせない魚の一つです。活魚は高級魚として取引され、野締めのものは安価な大衆魚としてスーパーに並ぶなど、価格の幅も種類も豊富。そんなカレイは高たんぱく・低脂質な食材として知られ、タウリンやビタミン類を豊富に含みます。今回は管理栄養士の筆者が栄養素とその働きについて詳しく解説。ババガレイやアカガレイなど種類ごとの特徴やおすすめの食べ方、ヒラメとの違いについてもご紹介します。
目次
【カレイ(鰈)】について詳しく知ろう
日本全国どこのスーパーに行っても一年中買うことのできる「カレイ(鰈)」。誰もが一度は口にしたことがある馴染み深い魚ではないでしょうか。
日本近海には40種類以上ものカレイの仲間が生息しており、北海道ではソウハチガレイやマガレイの漁獲量が多く、大衆魚として人気があります。種類や鮮度によってはお寿司屋さんで高級魚として扱われることも。そんなカレイの生態や産地、旬などについて知りましょう。
「海の忍者」と呼ばれる理由
カレイは身体がとても平べったい不思議な形をしている魚です。体の裏表があり、両目が表側に付いているのも独特の特徴です。また、カレイは表側の色素細胞を周囲の環境に合わせて変えられるという驚くべき特技を持っているため、かくれんぼが得意!砂地や泥の海底でまるで忍者のように姿を消すことができるため、「海の忍者」とも呼ばれています。
【カレイ(鰈)】の名前の由来
カレイの語源、名前の由来には諸説あります。カレイの魚体が通常の魚の半分の厚さであることから「カタワレウオ」が変化した説、また平たい体がエイに似ていることから「カラエヒ(カラエイ)」と呼ばれていたものが変化して「カレイ」に変化した説などが有名です。 また、カレイは漢字で「鰈」と書きます。うおへんの右側の漢字は「葉」という意味を持ち、カレイの魚体が平たく葉っぱのようなため、鰈という漢字になったと言われています。
旬の時期
カレイの旬は通年です。産地を変えながら、種類も変わりながら一年中食べることができます。ただし、冬の方が大きくて身が太っているかれいを食べることができる印象がありますね。
例えば、北海道で煮付けにされることが多い「クロガレイ」は体長40㎝にもなる大型のカレイです。メスは卵、オスは白子を持つ12月から4月頃が旬の時期とされています。筆者はクロガレイの煮付けが大好き!なので、冬が旬のイメージです。
【ヒラメ(鮃/平目)】との違いについて
「カレイ類」は北海道では渡島半島以外のほぼすべての沿岸部に分布し、主に水深約150m以浅の砂質か砂泥質の海底に多く生息しています。目が右側に偏っており、体色の黒い表面が右側、体色の白い裏面が左側を向きます。カレイは主にゴカイ類や二枚貝類、ヨコエビ類を食べていますが、「ソウハチガレイ(宗八)」のみは他と違ってエビ類などの浮遊している餌を食べています。
「ヒラメ」はというと、体が長楕円形で口が大きく、両目が体の左側にあります。メスの方が大きくなり、その魚体は1m前後、オスは60cmほどに成長します。身が肉厚で味わいが良いことから人気が高く、白身魚の王様といった存在で価格も高いです。北海道では日本海と津軽海峡を中心に分布しており、道東太平洋にはほとんど分布しません。ヒラメのえさは魚やイカ類であることが多く、石狩湾ではスルメイカやカタクチイワシなどを食べています。カレイに比べるとエサまで高級!であり、えんがわ(縁側)も寿司ネタとして人気です。
【カレイ(鰈)】に含まれる栄養価とその働きについて
マガレイ(生)は100gあたり95kcal、タンパク質19.6g、脂質1.3g、炭水化物は0.1g、食物繊維は0gです。
ここからはカレイに多く含まれる栄養素を紹介します。
◆タンパク質
タンパク質はカレイ100g中に19.6gです。タンパク質は筋肉や皮膚、血液、内臓、髪の毛など体のあらゆる部分を作る材料になっています。カレイなどの白身魚に含まれるタンパク質は、体内で作ることができないロイシンやリジンなどの必須アミノ酸を豊富に含んでいます。
◆カルシウム
カルシウムは生のマガレイ100g中には43㎎、干しカレイには100g中に40㎎を含みます。子持ちカレイはカルシウムを卵のために消費してしまうため、その含有量は約半分になっています。
カルシウムは骨や歯を丈夫に保つほか、体の筋肉の収縮に関わったり精神の安定にも必要なミネラルです。体づくりに欠かせないカルシウムですが、日本人に不足している栄養素の一つなので、積極的に摂取したいですね。
◆タウリン
タウリンは栄養ドリンクの主成分としてもよく見かける成分です。タンパク質が分解される過程でできるアミノ酸に似た物質で、体内では肝臓や筋肉、脳、心臓などに高濃度で含まれています。母乳の中にも多く含まれ、乳児の発達に重要な栄養の一つです。
タウリンは高血圧を改善し、動脈硬化、心不全、心臓病などの予防に有効的です。また、血中コレステロールや中性脂肪を減らし、肝機能を高める働きもあります。
カレイに含まれるタウリンの量はそれほど豊富というわけではありませんが、その存在が身の美味しさにも関わっていると言えます。
【カレイ(鰈)】の栄養素を効果的に摂取する食べ方
どんな食材であっても、せっかくならば栄養素を最大限に摂取できる食べ方をしたいものですよね。カレイの栄養素を逃さない効果的な食べ方はずばり「天ぷら」か「煮付け」です。お寿司やお刺身にするときにはカレイの皮を削がなければいけません。カレイの皮にはコラーゲンやタンパク質が含まれるため、皮ごと食べられる加熱料理をおすすめします。煮付けにした際は煮汁まで召し上がるとより良いです。コラーゲンが多い魚なので、煮付けた汁を冷やし固めた「煮凝り」も楽しめますよ。
【カレイ(鰈)】の美味しい食べ方
ここまではカレイの旬やヒラメとの違い、栄養素についてお伝えしました。ここからは管理栄養士兼料理研究家がおすすめする美味しい食べ方をご紹介します。
《煮付け》
筆者はカレイの食べ方の中でも「煮付け」が一番好きです。ふっくらとしたカレイの身に甘辛い煮汁を絡めて食べる・・・。ご飯が進みますね。特に産卵期で子持ちカレイがスーパーの店頭に並ぶ時期は特におすすめ!味のしみた卵や白子まで無駄なく美味しく食べることができます。煮付けの後に残った煮汁は冷やすことで「煮凝り」にもなりますよ。
《刺身》
マコガレイは「刺身」の王様!その味わいはヒラメをはるかに凌ぐとされます。カレイの刺身は淡白なイメージがあるかと思いますが、コリっとした独特な食感と噛めば噛むほどにじみ出る旨味を感じることができます。
他の種類も新鮮であれば刺身にするだけでも良いですが、昆布締めにすることでより旨みを強く感じ、ねっとりとした食感を楽しめます。 お好みの野菜と合わせてドレッシングをかけたカルパッチョもおすすめ!
《塩焼き》
新鮮なカレイは「塩焼き」にしても美味です。パリッと焼き上げた皮の風味や皮付近の身の旨さは、シンプルな塩焼きだからこそダイレクトに感じることができます。子持ちカレイの場合は卵の中心まで火を通すことが難しいため、アルミホイルで包んで蒸し焼きにしてから皮を焼き上げると良いですよ。
《素揚げ》
小さいものはじっくり揚げることで骨までバリバリ食べられます。北海道ではスーパーのお総菜コーナーでもカレイの「唐揚げ」や「素揚げ」が売っています。小麦粉や片栗粉を薄くまぶして160度ほどの低めの温度の油でじっくり揚げれば完成です。塩だけの味付けはもちろん、カレー塩もよく合います!
《干物》
北海道のソウハチガレイ(宗八かれい)は「干物」にすることが多いです。他の種類に比べるとサイズは小ぶりですが、干物にすることで身離れが良くなり食べやすくなります。皮に少し臭みがあり、焼けると独特の風味が立ち上がりますが、これが醍醐味。干物にすることで旨味もアップし、白飯との相性は抜群。お酒にもピッタリのメニューです。
【カレイ(鰈)】の種類を知ろう
カレイの種類は大変多いのですが、特定の種を選んで購入する人は多くないと思います。種の認識が低い魚ではありますが、ここまでで「クロガレイ」「宗八カレイ」「マコガレイ」などいくつかの名称が出てきましたね。家庭の食卓やスーパーに並ぶ頻度の高い代表的な種類をご紹介します。
①ババガレイ
「ババガレイ(母母鰈・婆鰈)」は地域によって「ナメタ」や「アワフキ」とも呼ばれる種類です。表面には暗褐色の斑点模様がついており、多量の粘液で覆われてヌメヌメしています。太平洋沿岸に生息していて寒い冬が旬!脂がのっているこの時期に水揚げされたものは、肉厚で煮付けにピッタリです。
コラーゲンが多く、煮付けにするとゼラチン質がたっぷり溶け出てきます。「煮凝り」が好きな人はババガレイを買うことをおすすめします。
②アカガレイ
「アカガレイ(赤鰈)」は名前の通り、体表が赤っぽいカレイです。鮮度が落ちやすいため刺身で食べられることは少ないですが、アカガレイの刺身は高級品!活け締めした鮮度の良いものをデパートやスーパーで手に入れた時や、お寿司屋さんのメニューにアカガレイを見つけた際は是非食べてみてください。
③マガレイ
カレイの中で最もポピュラーと言えるのが「マガレイ(真鰈)」です。秋から春が旬。体長は50㎝にもなる大きく育つ種類で、どんな料理にもピッタリ。北海道全域で漁獲できるほか、長崎県の日本海側でも漁獲されることから温かい地域でも食べられているカレイです。味もそこそこ美味しく、大衆魚として安価で手に入るお手軽さが人気です。
④マコガレイ
こちらも九州まで生息するカレイです。「マコガレイ」のマコは真子と書き、卵巣を指します。カレイ類は卵や白子が大きく、煮付けにして卵を味わうことが醍醐味だと思っている人も多いですが、このマコガレイは身が大変美味しく夏から秋の終わりが旬とされているカレイです。体長50㎝ほどに育つ大型のカレイで身も食べ応えがあります。
ただし、マコガレイをマガレイと区別しない地域もあります。
⑤アサバガレイ
「アサバガレイ」は比較的安価で手に入る種類。子持ちカレイでも丸ごと煮付けにピッタリの大きさです。鱗が小さくとりやすいため、料理初心者にもおすすめですよ。冷凍品などの加工にも回される大衆的な存在です。
⑥ホシガレイ
「ホシガレイ(星鰈)」は北海道の南から九州までで漁獲される初夏が旬のカレイです。なんと、ヒラメよりも高価なことがあるほど、美味しくて希少な高級カレイです。なかなかスーパーの店頭に並ぶことが少ないため、料亭や回らないお寿司屋さんで巡り合えたらラッキーな種類ですよ。
⑦ソウハチガレイ
「ソウハチガレイ(宗八鰈)」は、口が大きく唇の端がとがっているのが特徴です。地域によってはキツネガレイやエテガレイとも呼ばれています。ソウハチは髪型の「総髪」からきており、人の顔の正面を見た時の髪型に似ていることからこの名前がついたと言われています。
北海道や東北全域から、島根県の日本海側で漁獲されるカレイで体長は40㎝近くまで大きくなりますが、主に小さな魚体が干物になって流通します。
⑧クロガレイ
「クロガレイ(黒鰈)」は北海道のオホーツク海側や根室湾で漁獲される種類で、体長30~40㎝ほど。煮付けにすると大変美味です!産卵期(3~4月)には卵や白子を抱き、身も含めたボリュームは満点。見た目がよく似た「クロガシラカレイ」は別の種類になりますが、クロガレイと区別されることが少ないです。
【カレイ(鰈)】にまつわるQ&A
カレイの種類ごとの特徴についてお伝えしました。ここからはカレイにまつわるちょっとした疑問にお答えするQ &Aコーナーです。
Q1.産卵期のカレイはおいしくないって本当?
食べたい部位によりますので、そうとは限りません。カレイの産卵期は卵巣や精巣が魚体に対して割合が大きくなるため、卵や白子を味わいたい人には産卵期のカレイの方が美味しく感じます。
ただし、身を味わいたい!という人は、産卵期は避けた方が良いでしょう。
Q2.どうしてカレイは「子持ち」ばかり売られているの?
産卵期になると雄雌ともに水深の浅いところに移動して漁獲量が増えること、小さいサイズは丸のまま売られることが多いのに対し、大きなものは切り身になって売られるため、卵の存在が目立つということが疑問の理由として挙げられそうです。
カレイは卵巣や精巣が大きく育つ魚です。しかも、内臓が小さく処理もしやすいことが特徴。その卵や白子が好きな人は多く、切り身になっているとどちらが入っているか分かりやすいという理由もあるでしょう。旬の時期には安価で美味しさもさることながら、食べる手間という点でも手軽な魚なため、子持ちカレイがよくスーパーに並んでいると言えます。
Q3.回転寿司で安く食べられる「エンガワ」はカレイ?
回転寿司で「エンガワ(縁側)」を必ず食べるという人もいらっしゃるのではないでしょうか。コリコリとした独特の食感と旨味、そして脂の乗り具合が絶妙なハーモニーで筆者も大好きな寿司ネタです。
回転寿司で食べるエンガワは「オヒョウ」という体長2mを超すカレイの仲間が使用されていることが多いです。それもそのはず、カレイは大きくなっても50㎝程度。1匹から取れるエンガワはたかが知れています。高級なお寿司屋さんでは活カレイや活ヒラメのエンガワが食べられることもありますが、回転寿司のエンガワは冷凍の「オヒョウ」であることが多いです。
まとめ
日本で愛される大衆魚である「カレイ」について、様々な角度からお伝えしました。身を食べたいか、卵を食べたいかで選ぶ種類や旬の時期が変わるため、是非参考にしてみてください。
また、カレイは皮ごと食べることでしっかり栄養素を摂取することができます。柵になって売られている刺身より、丸ごと味わう唐揚げや塩焼きもおすすめです。鱗を取ることが面倒に感じることもあるかもしれませんので、スーパーの鮮魚コーナーで購入するときは捌いてもらうのもアリですね。
旬の時期の子持ちカレイだけでなく、旨味がました干物も含めて一年を通してその味を楽しみましょう。