イカを世界で一番多く食べていると言われている日本人。生のまま食べたり、加熱調理したり、あたりめのように乾物にしたり、ちゃんとした食事からおやつにまで大活躍する身近な海産物です。今回はイカに含まれるタウリンや意外と気にしていなかった塩分を含む栄養素とその効能はもちろん、普段は捨てているかもしれないスミ、ウロ(ゴロ・ワタ・肝臓)、皮に多く含まれる栄養素、スルメイカやヤリイカといった種類ごとの違いについて管理栄養士の筆者が詳しく解説します。
目次
【イカ】について詳しく知ろう
日本は世界一のイカ消費国です。刺身など生で食べる他にもフライや煮付け、イカ飯、中華料理や西洋料理など様々な料理に利用されるほか、「塩辛」や「沖漬け」、「一夜干し」、「スルメ」などの加工品にもなります。 北海道では初夏から晩秋にかけて、函館の沖合にはたくさんのイカ漁の漁火(いさりび)を見ることができます。これらは「スルメイカ」をとる漁船がほとんどで、夏の風物詩とも言われています。スルメイカは北海道・青森県・関東では「マイカ」とも呼ばれ、食用イカの約5割を占める日本で最も多く獲れる種類です。
スルメイカ漁は新潟や長崎など日本海南西部から北海道へ漁業者が移住し、漁をしたのが始まりとされています。スルメイカ漁が重要視されるようになったのは江戸時代初頭、するめが昆布、干しナマコ、干しアワビなどとともに清(中国)向けの貿易品として輸出されるようになってからのことです。
また、スルメイカと共に生食用として人気なのが「ヤリイカ」です。外套長40cmを超す大型ながら体はスリムで、槍の穂先を連想させることからその名が付きました。ミズイカ、ゴウイカとも呼ばれ道南地方では春を告げる味覚として定着しています。漁獲量が少なく、値段も張りますが軟らかく甘いためスルメイカよりも美味とされています。
イカに含まれるカロリーや栄養成分、その働き
イカの栄養価を紹介します。
生のスルメイカのカロリーは100gあたり83kcal。タンパク質を17.9g、脂質を1.5g、炭水化物を0.1g含みます。生のヤリイカのカロリーは100gあたり85kcal。タンパク質を17.6g、脂質を1g、炭水化物を0.4g含みます。他の栄養素は微量ではありますが、ビタミン類やミネラルも含みます。
イカはスーパーでも年中気軽に手に入る食材であるうえ、様々な加工品に使われているので日本人はよく口にする食材です。
それではイカに含まれる栄養素の詳しい働きを見てみましょう。
①タウリン
イカ100g中にタウリンを350㎎含みます。タウリンは滋養強壮や疲労回復を速める栄養素です。その効果は栄養ドリンクにも配合されているほど。主な役割としては血液中のコレステロールや中性脂肪を減らすこと、血圧を正しく保ち高い血圧を下げること、肝臓の解毒能力を高めることなどが挙げられます。他にもインスリン分泌を促進し糖尿病の予防や治療にも良い点や、視力の衰えを防ぐ点も重要な役割と言えます。
タウリンは、人間の体内でも微量ではありますが作り出すことができる栄養素です。人間には体重のうち0.1%がタウリンの重量であるといわれるほど。
心臓や肝臓、脳、筋肉、骨髄などの様々な臓器や組織に分布しており、生命活動に重要な役割をしています。
タウリンは魚介類に多く含まれていますが、水分と一緒に流れ出ていく性質があるので加熱する際は汁までいただきましょう。イカの場合はゴロ(肝臓)にタウリンが多いと言われています。煮物やいかめしなど加熱する料理の場合は煮汁にタウリンが出て行ってしまい、身に残っているタウリンが減少していることも。また、タウリンは熱に弱い性質も持っているため、タウリンを多く摂取したいときは生のイカや塩辛を食べることをおすすめします。
②塩分
イカやタコなどのタウリンが多く含まれる魚介類には天然の塩分が含まれています。醤油や塩をつけなくても塩分が多い食材です。
生のイカ100g中に0.4~0.7gもの塩分が含まれます。イカを大量に食べると塩分過多でむくんでしまったり、高血圧になることも。塩分過多は健康寿命を縮めることに繋がります。塩分の摂りすぎにならないようにイカを食べる際は味付けを薄めにするか、刺身には醤油を付けないなどと工夫をしてみてください。
③タンパク質
イカはタンパク質を多く含む食材です。タンパク質は筋肉や体の組織、爪や髪の毛を構成する栄養素です。また、1g4kcalの熱量を持ち、体を動かすエネルギーにもなります。タンパク質が不足するとむくみや筋肉量の低下などが起こります。
魚介類のタンパク質は肉と比べると消化しやすいことが特徴なため、胃もたれをする人や運動前のタンパクチャージにも最適です。
④亜鉛
生のスルメイカには100g中1.5㎎の亜鉛が含まれています。特筆するほど多いという訳ではありませんが、亜鉛は魚介類や肉類に多く、細胞の再合成や抗ストレス、免疫力アップに関わる栄養素です。細胞のターンオーバーをスムーズにすることから、味覚を正常に保つ働きや傷の治りを早くする働きもあります。
いかの刺身や塩辛、するめなどで簡単に摂取できる点がうれしいですね。
⑤コラーゲン
イカにはコラーゲンが含まれます。コラーゲンは肌のハリやツヤを保つ栄養素です。
コラーゲンはビタミンCと一緒に摂取することによって皮膚での再合成がなされるため、イカを献立に入れるときには生野菜やフルーツを忘れずに摂取するようにしましょう。
部位ごとの比較
イカに含まれている栄養素とその働きについてお伝えしました。次は部位ごとの栄養価の特徴や食べ方についてお伝えします。
◆イカスミ
イカスミ料理を召し上がったことがある人にはわかるかと思いますが、イカスミには旨味成分であるアミノ酸が豊富に含まれています。他にもコンドロイチンやヒアルロン酸などの「ムコ多糖類」が含まれており、これらはサプリメントにも配合される成分です。抗がん作用があるペプチドグリカンやタウリン、亜鉛も含まれているため、イカスミには健康に良い成分が多く含まれていると言えます。
イカスミを使った料理としてはリゾットやパスタなどの地中海料理が定番ですが、日本ではあまり食べる文化が無いです。沖縄県では「イカスミ汁」という、鍋料理は滋養食として食べられているそうです。 ちなみにイカスミの黒い成分はメラニン色素です。メラニンにも整腸作用や抗菌作用がありますが、定着すると簡単に取れなくなってしまうため、お料理中や食事中にイカスミが手や服についてしまった場合はすぐに拭いたり中性洗剤などで洗うようにしましょう。
◆肝(ワタ、ゴロ、ウロ)
イカの肝には特にタウリンが多く含まれています。他にも魚油に含まれているDHAやEPAも含んでおり、捨ててしまうのはもったいない部位です。
肝は主に塩辛に加工されたり、ゴロ焼きにしたりと食べることが多い部位です。少しクセはありますが、お酒好きな人に好まれる味ですよ。
◆皮
刺身や天ぷらにするときに剝がされることが多いイカの皮。しかし、捨ててしまうのは待ってください。イカの皮にも栄養素が含まれます。
先述した「コラーゲン」はイカに含まれる全体の9割が皮に含まれています。つまり、イカを食べる時は皮も食べなければ殆どコラーゲンは摂取できないということ。美容のためにイカを食べる場合は皮つきのまま料理するようにしましょう。
干したイカの栄養素について
イカは加工品としてスルメやあたりめなどの干した保存食にされることも多いです。イカは干すことによって旨味成分であるアミノ酸が倍増し、歯ごたえが増します。
栄養素も凝縮するため、スルメの場合は100gあたり334kcal、タンパク質は69.2g、脂質は4.3g、炭水化物は0.4gとなります。ミネラルやビタミンも凝縮されますが、調味料無添加でも食塩相当量が2.3gになるため、食べ過ぎはお勧めできません。
タコやエビとの栄養価の比較
生のマダコのカロリーは100gあたり76kcal。タンパク質を16.4g、脂質を0.7g、炭水化物を0.1g含みます。エビ(甘エビ)は生の場合、100gあたり98kcal、タンパク質は19.8g、脂質は1.5g、炭水化物は0.1gです。他の栄養素はそれほど違いはありませんが、タウリンの含有量はイカ350㎎、タコ520㎎です。
イカの種類とその特徴について
イカは漁場によってとれる種類が変わります。イカの種類によって味や食感が違うため用途が分かれるものもありますよ。スルメイカの他、ヤリイカ、アオリイカ、ホタルイカ、アカイカ、コウイカ、ケンサキイカの種類ごとの特徴について解説します。
スルメイカ
日本で最も多く食べられている種類のイカ。なんと食用イカの50%がスルメイカです。約30㎝で調理もしやすいお手頃サイズ。
歯ごたえが良く、上品な甘みがあるイカです。漁獲量が多いため、塩辛やいかめしなどの加工品にもよく使われています。
ヤリイカ
スリムな体の割にヒレが大きい。体長は約40㎝。ミズイカ、ゴウイカとも呼ばれ、北海道では春の道南でしかとれないイカです。生息地が少なく、北海道、青森、宮城県が主な産地とされています。やわらかく、値段も張りますが甘みがあってスルメイカよりも美味しいとされています。
アオリイカ
アオリイカも旨味や甘みが強く、美味しいイカです。ただし、漁獲量が少ないため一般的には流通しないイカです。
胴が丸みを帯びている可愛らしい見た目のイカで、北海道では石狩湾以南の各地で漁獲されます。全長45㎝以上になる大きなイカで大きいものでは50㎝以上になり、重さは6㎏以上にもなります。食べるにも釣るにも人気が高いイカです。
ホタルイカ
ホタルイカはスルメイカと同じツツイカ目でありながら、体長7~8㎝までしか大きくならない小さなイカです。4月から6月の春が旬で、蛍のように体が発光することで有名です。
産地では生や沖漬けにされますが、ほとんどが釜茹でされて酢味噌で和えて食べることが多いです。スミも肝も丸ごと食べられるため健康的ですね。
アカイカ
全長80cmにもなる巨大なイカです。重さは4㎏を超えるとか。大きな体ゆえ、身も厚く食べ応え抜群!モチモチとした食感と軟らかい肉質はステーキや天ぷらなどの加熱料理に良く用いられます。
加工食品に使われているイカはアカイカの場合が多いです。
コウイカ
コウイカはスルメイカやケンサキイカが属する「ツツイカ目」という種類とは別の分類のイカで、水分量が多くタンパク質が少なめのイカです。
一番大きな特徴は胴体の背中側に石灰質の甲を持っていることです。北海道ではまず穫れないため、道民が食べる機会はほとんどありませんが、本州や九州などの暖かい海で漁獲されてよく食べられています。身が厚くて食べ応えがあるイカです。
ケンサキイカ
ケンサキイカは九州では「呼子イカ」というブランドになっている美味しいイカです。日本の南側でよく漁獲され、温かい気候を好みます。刺身から煮物まで万能に使えるイカですが、漁獲量が少ないため高級品です。ケンサキイカが南の高級イカなら、ヤリイカは北の高級イカです。
美味しいイカ。食べる際の注意点
煮ても生でも美味しいイカですが、食べる時の注意点をお伝えします。
まず、生で食べる場合は新鮮なものを選びましょう。さばいていない状態で購入する際は、皮膚の斑点模様が新鮮です。また、目が澄んでおり指先で吸盤に触れると吸い付くような生きている状態が好ましいです。
生で食べる際には寄生虫に注意が必要です。イカにはアニサキスやニべリニアという寄生虫がほぼ100%生息しています。ニべリニアは食べても人間に害をもたらすことはないのですが、アニサキスは要注意!生きたまま食べると腹痛や嘔吐症状を引き起こします。アニサキスが心配な場合は冷凍もしくは解凍したイカか、しっかり火を通すことをおすすめします。
また、イカは先述した通り、天然の塩分が多い魚介類であるため味付けは薄めを心がけるようにしましょう。コレステロールやプリン体はそこまで多くなく、コレステロール値を正常に近づける働きを持つタウリンを豊富に含むため、毎日食べても安心な食材です。
北海道のイカを食べよう!
北海道でのスルメイカ漁は1968年に40万トンを記録してからというもの、それ以降は減少しており2万~10万トンを推移しています。スルメイカは「TAC制度」(Total Allowable Catch:漁獲可能量)の対象魚種になっており、魚種ごとの捕獲できる総量を定められ、資源の維持や回復が図られています。
スルメイカの道内の主な漁場は渡島半島南部、太平洋東部、根室海峡、積丹半島周辺などで、盛漁期は7月~11月です。ヤリイカは北海道では南のごくわずかな海域にしか生息していません。
北海道ではいかめしや塩辛、沖漬け、松前漬けなどにイカが使われており、昔からたくさん食べる文化が根付いています。沖漬けはイカを生きたまま醤油ベースのタレに漬け込んた珍味です。一度冷凍されてからルイベ(半解凍の状態で食べる)で食べることが一般的です。本州ではあまり見ることが無い、ピンク色に着色された甘酸っぱい「酢イカ」も道民の食卓の定番としてスーパーでよく見ますよ。
イカ好きであれば、ぜひ北海道のスーパーを訪れてみてください。北海道のイカ文化に驚くはずです。
まとめ
道産子管理栄養士がイカの栄養価から、北海道に根強く残るイカの食文化を紹介しました。低カロリーでヘルシー、かつ体にうれしい栄養素が含まれているイカ!新鮮なイカがとれる時期には是非とも生で堪能し、工夫を凝らした加工品はお酒やご飯のお供として好きな時に楽しんでくださいね。筆者のおすすめは、イカを丸ごと食べられる「沖漬け」です!